平成8年9月11日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

糸魚川−静岡構造線活断層系の調査結果と評価について


1 検討の経緯と評価の概要

本報告は、第8回地震調査委員会(平成8年2月7日)に地質調査所から提 出された資料に基づき、既存資料と合わせて、糸魚川−静岡構造線活断層系の過 去および将来の活動について検討し、その評価をとりまとめたものである。

 当該活断層系は、日本列島のほぼ中央部に位置する、全長 140〜 150km の活断層系である。当該活断層系についての平均変位速度、過去の活動履歴、1 回の地震に伴う変位量、歴史地震等の調査結果から、過去及び将来の活動につい て評価した。以下は、その評価の概要である。

過去の活動について

(最新の活動について)

 当該活断層系は、約1200年前に白馬から小淵沢までの区間(約 100km )で活動し、その地震の規模はM8程度(M7 3/4〜8 1/4)であった可能性が高 い。歴史地震としては、 762年の地震(美濃・飛騨・信濃)が、この地震に 該当する可能性がある。

(過去の活動について)

 牛伏寺断層を含む区間では、約千年おきに、M8程度の規模の地震が発生し てきた可能性が高い。具体的な活動区間と規模は、毎回約1200年前の活動と 同様(M7 3/4〜8 1/4)であった可能性と、牛伏寺断層と同時に活動した断層区 間が活動毎に変化し、地震の規模もM7 1/2〜8 1/2の範囲でその都度異なってい た可能性とが考えられる。

将来の活動について

 牛伏寺断層を含む区間では、現在を含めた今後数百年以内に、M8程度(M 7 1/2〜8 1/2)の規模の地震が発生する可能性が高い。しかし、地震を発生させ る断層区間(場所)がどこまでかは判断できない。

※なお、Mの大きさは 1/4 刻みで評価している。

2 糸魚川−静岡構造線活断層系の調査結果と評価


(1) 断層系の概要

糸魚川−静岡構造線活断層系は、日本列島のほぼ中央部に位置する、全長 140〜 150kmの活断層系であり、北部では東側が隆起する逆断層成分、南 部では西側が隆起する逆断層成分、中部では左横ずれ成分が卓越している。

 ここでは、北部、中部、南部の区分は以下の通りとする。

   北部: 神城断層、松本盆地東縁断層

   中部: 牛伏寺断層、岡谷断層群、諏訪断層群、釜無山断層群

   南部: 白州断層、下円井断層、市之瀬断層群

(2) 調査結果のまとめ

調査結果は、地質調査所から提出された資料及び既存の文献からの引用であ る。

2−1.平均変位速度(地形調査等による)

  北   部         :約3m/千年(上下成分)

  牛伏寺断層       :5〜14m/千年(水平成分)

  中部(牛伏寺以外)   :3〜10m(水平成分)、約2m/千年(上下成分)

  南   部        :1〜2m/千年(上下成分)

(※)北部、南部での実際の平均変位速度は、断層面の傾きを考慮すると、上 記の値よりも大きくなる。

2−2.過去の活動履歴(活動間隔、最新活動時期)(8ヶ所のトレンチ調査による)

                 活動間隔       最新活動時期

  北   部         :約2千年   約1500年前以降(白馬)、1000〜1500年前(大町)

  牛伏寺断層         :約千年    700〜1500年前(松本)

  中部(牛伏寺以外)     :3〜5千年  約1500〜1700年前(岡谷)、 約1100〜1300年前(茅野)、約1200年前以降(小淵沢)

  南   部         :未解明    未解明

2−3.1回の地震に伴う変位量(トレンチ調査による)

  牛伏寺断層 (松本)   :6〜9m(最新活動における値)

  釜無山断層群(茅野)   :6m程度(最新活動における値)

2−4.歴史地震(新編日本被害地震総覧(宇佐美 1987)による)

 当該活断層系付近に発生したと思われる歴史地震は以下のとおりである。

  発生年(西暦)     場所           規模

  762年        美濃・飛騨・信濃    M7.0以上

  841年        信濃(松本付近?)   M6.5以上

 1714年        信濃小谷村       M6 1/4

 1725年        伊那・高遠・諏訪    M6.0〜6.5

 1791年        松本          M6 3/4

 1841年        信濃          ?

 1858年        信濃大町        M5.7±0.2

 1858年        信濃諏訪(疑わしい)  ?

 1890年        犀川流域         M6.2

 1918年        長野県大町付近     M6.1、M6.5  <大町地震>

(3) 評価

3−1.過去の活動について

3−1−1.最新の活動について

当該活断層系は、約1200年前に白馬から小淵沢までの区間(約 100km )で活動し、その地震の規模はM8程度(M7 3/4〜8 1/4)であった可能性が高 い。歴史地震としては、 762年の地震(美濃・飛騨・信濃)が、この地震に 該当する可能性がある。

<説明>

 最新活動時期は調査された上記区間内の6地点のうち3地点(大町、松本、 茅野)で約1200年前に求められ、残りの地点でもそう考えて大きな矛盾はな い。また、この時期の活動に伴う変位量は6〜9mであった。この2つのことか ら、1回の地震に伴う変位量、活動区間の長さ、地震の規模の平均的な関係に基 づいて、地震の規模をM8程度と考えた。

  762年の地震以外の歴史地震は、 841年の地震を含めて、上記の地震 規模(M8程度)に比べて規模が小さい。

※ 762年の地震について、歴史資料(續日本紀)は以下のように記述して いる。

 「天平寶字六年五月己卯朔、丁亥、美濃、飛彈、信濃等國地震、賜被損者穀 家二斛」

(天平宝字6年5月9日(西暦 762年6月9日)、美濃、飛彈、信濃の国 で地震があり、被災者には1戸につき穀物2斛(1斛は現在の1石の約4割)を 賜った)

3−1−2.過去の活動について

牛伏寺断層を含む区間では、約千年おきに、M8程度の規模の地震が発生して きた可能性が高い。具体的な活動区間と規模は、毎回約1200年前の活動と同 様(M7 3/4〜8 1/4)であった可能性と、牛伏寺断層と同時に活動した断層区間 が活動毎に変化し、地震の規模もM7 1/2〜8 1/2の範囲でその都度異なっていた 可能が考えられる。

<説明>

 牛伏寺断層の活動間隔(平均約千年)と平均変位速度(千年あたり8m前後 )から、1回の地震に伴う変位量は最新活動(6〜9m)とほぼ同程度であった と推定される。1回の地震に伴う変位量と地震の規模との平均的な関係に基づい て、地震の規模をM8程度と考えた。

 トレンチ調査結果による活動間隔が調査地点毎に異なっていたことを考慮し 、活動毎に活動区間が異なる可能性も考えた。

3−2.将来の活動について

牛伏寺断層を含む区間では、現在を含めた今後数百年以内に、M8程度(M7 1/2 〜8 1/2)の規模の地震が発生する可能性が高い。しかし、地震を発生させる断 層区間(場所)がどこまでかは判断できない。

<説明>

 将来の活動については、基本的に過去の活動の延長線上にあると考えて評価 した。牛伏寺断層では前回の活動(約1200年前)からすでに平均的な活動間 隔年数(約千年)を過ぎているが、活断層の活動間隔のばらつきを考慮して、次 回の活動時期を標記のように評価した。

 また、過去の活動を考慮すると、地震を発生させる断層区間(場所)と規模 の詳細は判断できない。

(4) 今後に向けて

当該活断層系についての調査資料は比較的多く、上記のように重要な知見が 得られた。今後、過去及び将来の地震活動についてより的確な評価をするため、 各断層区間での複数のトレンチ調査、地震観測、測地測量、構造調査等を行うな ど、さらに調査研究を進める必要がある。

(5) 参考

「3.評価」の補足及びそれ以外の可能性についての活断層分科会における 議論の要点及び、当該活断層系付近の最近の地震活動と地殻変動の状況を参考に 記す。

5−1.過去の活動について

5−1−1.最新の活動について

当該活断層系は、約1200年前に白馬から小淵沢までの区間(約 100km )で活動し、その地震の規模はM8程度(M7 3/4〜8 1/4)であった可能性が高 い。歴史地震としては、 762年の地震(美濃・飛騨・信濃)が、この地震に 該当する可能性がある。

 岡谷の最新活動時期(約1500〜1700年前)は、標記で推定した最新 活動時期(約1200年前)とやや異なっている。しかし、地層の年代決定精度 、地層の記録不完全性、地表断層の不連続性・選択性を考慮すると、大きな矛盾 とは考えられない。

 1回の地震に伴う変位量Dと地震の規模について、D−M対応式を用いると 、D=6〜9mはM8程度(M7.9〜8.3)に相当する。その不確かさの幅 を±1/4程度と考えた。また、活動区間の長さLと地震の規模について、L−M 対応式を用いた場合、最大規模はM8 1/4(M8.2)に相当する。

 標記では最新活動時期(約1200年前)に1回の大きな地震が生じたと考 えたが、現在の年代決定精度では、いくつかの活動区間に分かれて別々に動いた 可能性も否定できない。

 最新活動時期(約1200年前)の歴史地震として、762年の地震のほか に841年(信濃)の地震がある。841年の地震は、以下のことから約M7以 下と考えられる。

  1.@被害が同年の伊豆の地震より軽いこと。

  2.A余震の記述が地震直後の夜だけであること。

  3.B京都において有感の記述がないこと。

762年の地震(美濃・飛騨・信濃)については、震央についてこれ以上の 資料はない。したがって、当該活断層系で発生したと断定することはできない。

 なお、地震の規模については、0.1の精度で推定することは難しいので分 数表示とした。

(注)使用した対応式は、以下のとおりである。

  D−M対応式 Log D(m)=0.6M−4     (松田 1975)

  L−M対応式 Log L(km)=0.6M−2.9  (松田 1975)

5−1−2.過去の活動について

牛伏寺断層を含む区間では、約千年おきに、M8程度の規模の地震が発生して きた可能性が高い。具体的な活動区間と規模は、毎回約1200年前の活動と同 様(M7 3/4〜8 1/4)であった可能性と、牛伏寺断層と同時に活動した断層区間 が活動毎に変化し、地震の規模もM7 1/2〜8 1/2の範囲でその都度異なっていた 可能が考えられる。

 牛伏寺断層の平均変位速度については、千年あたり 7.6〜9.6mと4.9 〜13.8mという値が得られているので、おおむね8m前後であった可能性が 高い。最新活動より前の地震については、1回の地震に伴う変位量Dが求められ ていないが、牛伏寺断層の活動間隔(平均約千年)と平均変位速度から、Dは最 新活動(6〜9m)とほぼ同程度であったと推定した。

 活動区間と規模の詳細は標記のように2つの可能性が考えられるが、地層の 記録不完全性、地表断層の不連続性・選択性を考慮すると、どちらの可能性が高 いかは判断できない。

 活動間隔にも1回の地震に伴う変位量にも、一般に平均の半分から1.5な いし2倍以内のばらつきがあると言われているので、規模の推定には、そのこと を留意しておく必要がある。ただし、糸静線の全長(約 140km)を考慮する と、その上限はM8.5程度と考えられる。

 なお、歴史地震調査によれば、18世紀以降にも当該活断層系付近で被害地 震が発生している。しかし、それらの規模は小さいと考えられ、上で述べたよう な大きな地震の発生間隔や規模の評価には大きな影響を与えない。

 なお、南部については活動履歴が解明されていない。

5−2.将来の活動について

牛伏寺断層を含む区間では、現在を含めた今後数百年以内に、M8程度(M7 1/2 〜8 1/2)の規模の地震が発生する可能性が高い。しかし、地震を発生させる断 層区間(場所)がどこまでかは判断できない。

 活断層の活動間隔には、一般に平均間隔の半分から1.5ないし2倍以内の ばらつきがあると言われていることから、次回の活動時期について標記のような 幅を持たせた。

 なお、18世紀以降の歴史地震に現れているようなM6.0〜M6.5程度 の地震については、活断層調査による評価は困難である。

5−3.当該活断層系付近の最近の地震活動

 過去数十年間の地震観測によれば、断層線に沿う地震活動は特別活発なも のではない。

 微小地震の震源は、主に、北部では断層系の東側に、諏訪湖以南では西側に 分布し、両者の中間部である牛伏寺断層付近では断層付近に分布する。震源の深 さは北部で浅く(0〜10km程度)、南部で深い(10〜20km程度)という特 徴が見られる。震源分布の断面図からは断層面の形状を推定できるような特徴的 な分布は明瞭ではない。

 発震機構解はかなりばらついているが、大局的な傾向は北部は逆断層、諏訪 湖以南は横ずれか逆断層で、その中間の牛伏寺断層付近は十分なデータがなく、 確定的なことは言えない。

5−4.当該活断層系付近の最近の地殻変動

 全国スケールで過去約 100年の測地測量結果や最近のGPS観測結果を 見ると、大局的にはこの断層系の両側で変動量に差があり、この地域で地殻歪が 蓄積していると推定される。

 この断層系の北部から信濃川地域の一帯では概ね西北西−東南東から北西− 南東方向に圧縮されている。その中では、この断層系付近よりも信濃川地域の方 が歪量が大きい。また、断層系の諏訪湖以南では歪量は小さい。