平成18年3月14日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


北由利断層の長期評価の一部改訂について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について−地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、98断層帯の長期評価を行い公表した。

北由利断層の評価は平成17年4月13日に公表しているが、その後、最近の調査結果により活動履歴などに関する新たな知見が得られたことから、これを基に評価の見直しを行い、一部改訂版としてとりまとめた。また、評価の新旧対比表を付録として巻末に示した。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


平成18年3月14日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

北由利断層の評価(一部改訂)

北由利断層は、秋田県秋田市から同県由利本荘市にかけての日本海沿岸部に分布する活断層である。ここでは、平成14−16年度に秋田県によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層の諸特性を次のように評価した


北由利断層については、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2005)により、これまで行われていた調査研究に基づいた長期評価が公表されているが、秋田県(2005)によって新しい知見が得られたことから、今回、再評価を行った。


1.断層の位置及び形態

北由利断層は、秋田県秋田市沖から同県由利本荘市沖に至る断層である。長さは約30kmで、ほぼ南北方向に延びており、断層の東側が相対的に隆起する逆断層である(
図1及び表1)。

2.断層の過去の活動

北由利断層の平均的な上下方向のずれの速度は約0.6−0.7m/千年の可能性があり、最新活動時期は約2千8百年前以後であった可能性がある。また、平均活動間隔は3千4百−4千年程度の可能性がある(表1)。

3.断層の将来の活動

北由利断層は、全体が1つの区間として活動する場合、マグニチュード7.3程度の地震が発生する可能性がある。その時、断層の近傍の地表(海底)面では、東側が西側に対して相対的に2−3m程度高まる段差や撓みが生じる可能性がある(表1)。
北由利断層の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表2に示すとおりである。本評価で得られた地震発生の長期確率には幅があるが、その最大値をとると、北由利断層は、今後30年の間に地震が発生する確率が、我が国の主な活断層の中では、やや高いグループに属することになる(注1、2)。

4.今後に向けて

北由利断層では、平均的なずれの速度や1回のずれの量に関する精度の良い資料が得られていない。また、過去の活動履歴に関する資料も十分とは言えない。本断層は海域に分布するため、陸上の活断層とは異なり調査は難しいが、将来の地震発生の可能性に関して、より良い精度とするためには、平均活動間隔を特定するための資料をさらに得る必要がある。



表1 北由利断層の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注3)
根  拠
(注4)
1.断層の位置・形態
  (1)北由利断層を構
   成する断層
北由利断層(KY−3断層、KY−2断層な
ど)(注5)
  文献1による。
  (2) 断層の位置・形
   状
地表(海域)における断層の位置・形状
 断層の位置
  (北端) 北緯39°40′東経140°01′
  (南端) 北緯39°24′東経140°01′
 長さ    約30km






文献1による。
位置及び長さは図2
から計測。
地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置
          地表での長さ・位置と同じ
 上端の深さ  0km

 一般走向   N−S


 傾斜     東傾斜


 幅      不明










上端の深さが0kmで
あることから推定。
地形の特徴から推
定。
一般走向は、断層の
両端を直線で結んだ
方向(図2を参照)。
文献1などに示され
た既存ボーリング資
料による。
地震発生層の下限の
深さは20km程度。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
 東側隆起の逆断層

文献1に示された音
波探査結果と既存ボ
ーリング゛資料による。
2.断層の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
約0.6−0.7m/千年(上下成分)

文献2に示された資
料による。
  (2) 過去の活動時期 活動1(最新活動)
    約2千8百年前以後
 これに先だって、約1万年前以後、約9
千6百年前以前にも活動があった可能性が
あるが、これが何回前の活動であったかは
特定できない。


文献2に示された資
料による。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量 2−3m程度
           (上下成分)
平均活動間隔  3千4百年−4千年程度



断層の長さから推定。

平均的なずれの速度と
1回のずれの量から算
出。
  (4) 過去の活動区間 不明

3.断層の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間  断層全体で1区間
地震の規模 マグニチュード7.3程度
ずれの量  2−3m程度(上下成分)




断層の長さから推定。
断層の長さから推定。


表2 北由利断層の将来の地震発生確率等
 
項  目   将来の地震発生確率等
(注6)
 信頼度 
(注7)
備  考

地震後経過率(注8)

今後30年以内の地震発生確率
今後50年以内の地震発生確率
今後100年以内の地震発生確率
今後300年以内の地震発生確率

集積確率(注9)
 

0.8以下

2%以下
3%以下
6%以下
20%以下

20%以下

発生確率及び集積確
率は文献3による。


注1: 地震調査委員会の活断層評価では、将来の活動区間が単独で活動した場合の今後30年間の地震発生確率について、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
   
  なお、2005年4月時点でひととおり評価を終えた98の主要断層帯のうち、最新活動時期が判明しており、通常の活断層評価で用いている更新過程(地震の発生確率が時間とともに変動するモデル)により地震発生の長期確率を求めたものについては、将来の活動区間が単独で活動した場合の今後30年間に地震が発生する確率の割合は以下のとおりとなっている。
30年確率の最大値が0.1%未満:約半数
30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満:約1/4
30年確率の最大値が3%以上:約1/4
(いずれも2005年4月時点での算定。確率の評価値に幅がある場合はその最大値を採用。)
 
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率は以下のとおりである。
地震名 活動した活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)
地震発生直前の
集積確率 (%)
断層の平均活動
間隔 (千年)
1995年兵庫県南部地震
(M7.3)
六甲・淡路島断層帯主部
淡路島西岸区間
「野島断層を含む区間」
(兵庫県)
0.02%−8% 0.06%−80% 約1.7−約3.5
1858年飛越地震
(M7.0−7.1)
跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)
ほぼ0%−13% ほぼ0%−
90%より大
約1.7−約3.6
1847年善光寺地震
(M7.4)
長野盆地西縁断層帯
(長野県)
ほぼ0%−20% ほぼ0%−
90%より大
約0.8−約2.5
「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が3千年の場合は30年確率の最大値は8%程度である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
  ◎:高い、○:中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
  文献1:秋田県(2004)
  文献2:秋田県(2005)
  文献3:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
注5: 北由利断層は、当初、由利本荘市付近の日本海の海岸線に沿う活断層として示された(活断層研究会編,1980)。一方、秋田県(2003,2004)は、音波探査を行った結果、海域に海底付近まで変形を及ぼす撓曲帯が存在することを示し、これを北由利断層とした。秋田県(2004)は、そのうえで、このうち北部のやや急な部分を「KY−3断層」、中央部の緩やかな部分を「極めて緩やかな変形範囲」、南部のやや急な部分を「KY−2断層」と呼んでいる。ここでは、秋田県(2004)に従い、この撓曲帯を北由利断層と称することとした。
注6: 評価時点はすべて2006年1月1日現在。なお、計算にあたって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注7: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度
a: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d: 過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注8: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価した数字のうち0.8は2800年を3400年で割った値である。
注9: 前回の地震発生から評価時点までの間に地震が発生しているはずの確率。




(説明)


1.北由利断層に関するこれまでの主な調査研究

北由利断層は、秋田県秋田市から同県由利本荘市にかけての日本海沿岸部に位置する東側隆起の活断層である。
藤岡ほか(1976)は、本地域の新第三系−第四系の地質構造を明らかにし、鮮新統を大きく変位させている北由利衝上断層群の記載を行った。また、大沢ほか(1984)は、能代衝上断層群・北由利衝上断層群・仁賀保衝上断層群・酒田衝上断層群を総括したものを北由利衝上断層系と命名した。活断層研究会編(1980,1991)及び山崎ほか(1983)は、海岸線に沿う活断層を示した。この北由利衝上断層群を含む北由利衝上断層系について、Awata and Kakimi(1985)は歴史地震との関係について考察を行った。また、粟田(1988)は、活動開始時期や平均変位速度等について議論を行った。
秋田県(2003,2004,2005)は、北由利断層の総合的な調査を行い、断層の位置は海岸線より西側の海域であることを明らかにし、沿岸海域での音波探査による海底活断層分布を示し、活動履歴等について検討した。

2.北由利断層の評価結果

2.1 北由利断層の位置及び形態

(1)北由利断層を構成する断層

本断層は、秋田県秋田市沖から同県由利本荘市沖にかけて分布している(図1)。
北由利断層は、当初、由利本荘市付近の日本海の海岸線に沿う活断層として示された(活断層研究会編,1980)。秋田県(2003,2004)は、音波探査を行った結果、海域に海底付近まで変位を及ぼす撓曲帯が存在することを示し、これを北由利断層とした。ここでは、断層の位置及び名称は、秋田県(2004)にしたがった。そのうえで、秋田県(2004)が示した撓曲帯の西縁線を、北由利断層の位置とみなして図示した(図2)。
なお、秋田県(2004)は、本断層の北西方に西側隆起のAK−1断層を示しているが、本断層とは約10km程度離れており、変位の向きも異なる。また、秋田県(2004)は、海域での音波探査の結果、本断層の数km南西方に東側隆起の撓曲帯を推定しているが、変位が明らかではなく、連続性についても不明である。したがって、これらの断層については、ここでは扱わないこととした。
このほか、本断層の西側に隣接する海域については、「日本海東縁部の地震活動の長期評価について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2003)で既に評価されている。

(2)断層面の位置・形状

本断層の長さ及び一般走向は、図2に示された断層の両端を直線で結んで計測すると、約30km、N−Sとなる。ここで断層の北端は、秋田県(2004)の音波探査の結果、B−1測線(図2のB測線)では沖積層と推定される反射面まで撓曲変形が見られるのに対し、その北のA−3測線(図2のA測線)では同様の撓曲変形が見られないとされることから、B−1測線の位置で示した。また、断層の南端は、B−12測線(図2のM測線)まで沖積層と推定される反射面まで撓曲変形が見られることから、B−12測線の位置で示した。これより南のB−13測線(図2のN測線)に撓曲変形は見られないが、断層は、音波探査では確認できない海岸付近を南方へ延びていく可能性もあり、南端の位置については不確さを伴う。
断層面の上端の深さは、海底面付近まで東側隆起の撓曲変形が及んでいることから、0kmとした。
断層面の傾斜については、秋田県(2004)の音波探査結果と既存ボーリング資料から東傾斜であると推定される。
断層面下端の深さは、地震発生層の下限を目安とすると20km程度と推定されるが、断層面の幅については、地下深部の傾斜が明らかではないため不明である。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注10)

本断層は、上述のように東側隆起の地質構造が認められ(秋田県,2004)、断層面は東傾斜と推定されることから、東側が西側に乗り上げる逆断層と考えられる。

2.2 北由利断層の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注10)

秋田県(2004)は、断層を横断する音波探査を実施し、このうちB−3測線(図2のD測線)では、顕著な東上がりの撓曲構造が認められた。秋田県(2005)は、この近傍で断層を横切る7測線(E000−E600)で音波探査を実施しており、これらにおいても同様の結果が得られている。E300測線上の撓曲変形を挟む高度差は、III面では5−6m、この下位のIV面で6−7mである(図3)。秋田県(2005)は、ここで実施したボーリング調査の試料から得られた14C年代値(注11)などに基づき、III面の年代を約8千年前、IV面の年代を約1万年前と推定している。これらの結果に基づき計算すると、平均上下変位速度は、約0.6−0.7m/千年と求められる。
なお、本断層が分布する地域の地質断面図(大沢ほか,1984;粟田,1988)によれば、前期更新世に堆積した天徳寺層上部に断層を挟んで概ね2000mの変位が認められることから、本断層の活動度(注12)はA級に達している可能性もある。ただし、平均変位速度については、断層の位置や天徳寺層上部の年代及び変位量の見積もりについて不確かな点があることから特定できない。

以上のことから、本断層の平均上下変位速度は、約0.6−0.7m/千年の可能性がある。

(2)活動時期

a)地形・地質的に認められた過去の活動

上述したように、秋田県(2005)が実施した音波探査の結果、反射面に東側隆起の撓曲変形が認められた(図3)。秋田県(2005)は、明瞭かつ連続性の良い反射面をもとにa層とb層について、a層を上位よりa0−a5層に、b層をb、b'層に区分している。
過去の活動時期について、b層で撓曲変形が認められ、上盤側ではすぐ上位のa5層により削剥されて傾斜不整合をなし、下盤側にのみ分布することから、b層堆積後、a5層堆積前に活動があった可能性がある。秋田県(2005)によると、b層上部の有機物からは約1万−9千9百年前の14C年代値が、a5層上部の有機物からは約9千7百−9千6百年前の14C年代値が得られている。これらの年代値に基づくと、活動時期は約1万年前以後、約9千6百年前以前であった可能性がある。また、秋田県(2005)が海底浅部を対象として実施した音波探査の結果に基づくと、a1層(0面とI面の間)は、東側隆起で撓曲変形している。このことから、a1層堆積以後に活動があった可能性がある(図4)。a1層中部の有機物から約2千8百−2千7百年前を示す14C年代値が得られていることから、最新活動時期は約2千8百年前以後の可能性がある。
なお、秋田県(2005)は、a3層及びa2層で下盤側に厚く堆積する構造が認められること、下位に行くほど上盤側と下盤側の高度差が大きくなっていることから、a3層堆積前(III面)からa2層堆積時(I面)の間にも活動があった可能性を指摘している。しかし、これらの構造からは、その間に活動があった可能性もあるが、その回数までは特定できないと判断する。

以上のことから、本断層の最新活動時期は、約2千8百年前以後の可能性がある。また、これに先立ち、約1万年前以後、約9千6百年前以前にも活動があった可能性がある。さらに、それ以後a3層堆積前(III面)からa2層堆積時(I面)にかけて活動があった可能性もあるが、その活動回数及びそれぞれの活動時期の特定はできない。

b)先史時代・歴史時代の活動

1644年(正保元年)の羽後本荘の地震(マグニチュード6.5±1/4)は、本荘付近に城郭の大破などの大きな被害をもたらしたとされているが(宇佐美,2003)、本断層との関係は不明である。
なお、本断層の周辺では、以下の被害地震も知られている。
本断層の南方の海域では、1804年(文化元年)に象潟地震(マグニチュード7.0±0.1)が発生した。死者500人以上、倒壊家屋5000棟以上の被害が生じ、本荘付近でも被害の報告があり(宇佐美,2003)、津波も発生している(渡辺,1998)。

以上のことから、本断層の最新活動時期は、約2千8百年前以後であった可能性がある。また、約1万年前以後、約9千6百年前以前にも活動があった可能性がある。その2つの間に活動があった可能性があるが活動回数及び活動時期の特定はできない。

(3)1回の変位量(ずれの量)

本断層では、1回の変位量に関する直接的な資料は得られていない。
ただし、断層の長さ(約30km)から次の(松田,1975)の経験式(1)、(2)に基づいて1回の変位量を算出すると、約2.4mと求められる。

        Log L=0.6M−2.9 (1)
        Log D=0.6M−4.0 (2)

ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Dは断層の変位量(m)、Mは地震のマグニチュードである。

以上のことから、本断層の1回の活動における変位量は2−3m程度の可能性がある。

(4)活動間隔

本断層では活動間隔に関する直接的な資料は得られていない。ただし、平均上下変位速度(0.6−0.7m/千年)と断層の長さから推定される1回の変位量(上下成分約2.4m)に基づき算出すると、平均活動間隔は、3千4百年−4千年程度と求められる。

(5)活動区間

本断層の活動区間に関する直接的な資料は得られていない。

(6)測地観測結果

1997年から8年間のGPS観測結果では、本断層の周辺で東西方向のわずかな縮みが見られる。
なお、1981年までの約70年間の測地観測結果では、本断層の東側の陸域で顕著な歪は見られない。

(7)地震観測結果

本断層周辺の最近約5年間の地震観測結果によると、本断層付近の地震活動は低調である。本断層周辺の地震発生層の下限の深さは20km程度と推定される。

2.3 北由利断層の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

本断層全体を1つの活動区間とした場合、前述の松田(1975)の経験式(1)、(2)に基づくと、本断層(長さ約30km)から発生する地震の規模はマグニチュード7.3程度の可能性がある。また、このような地震が発生した場合、地表(海底)に東側隆起で2−3m程度高まる段差や撓みを生じる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

北由利断層の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表2に示すとおりである(注1、2)。
本断層は平均活動間隔が3千4百年−4千年程度、最新活動時期が約2千8百年前以後であることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は0.8以下となる。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ、2%以下、3%以下、6%以下及び20%以下となる(表3)。本評価で得られた長期確率には幅があるが、その最大値をとると本断層は今後30年の間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる。また、現在までの集積確率は20%以下となる。表3にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。

3.今後に向けて

北由利断層では、平均変位速度や1回の変位量に関する精度の良い資料が得られていない。また、過去の活動履歴に関する資料も十分とは言えない。本断層は海域に分布する断層であるため、陸上の活断層とは異なり調査は難しいが、将来の地震発生の可能性に関して、より良い精度とするためには、平均活動間隔を特定するための資料をさらに得る必要がある。


注10: 「変位」を、1頁の本文及び4,5頁の表1では、一般にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が、本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注11: 年代値は、秋田県(2005)が測定した炭素同位体年代値を、10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。
注12: 活断層の活動の活発さの程度を示す指標として、活動度が定義されている(松田,1975)。
・活動度がAの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が1m以上、10m未満であるものをいう。
・活動度がBの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.1m以上、1m未満であるものをいう。
・活動度がCの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.01m以上、0.1m未満であるものをいう。
注13: 年代測定値をNiklaus(1991)により暦年補正(注12)した値から、海水のリザーバ効果を考慮して、池原(2000)などに基づき、350年新しくした値を採用した。以下、リザーバ効果について簡単に記す。 放射性炭素同位体年代測定では、宇宙線によって14Cが生成されてから、生物に固定されるまでの時間を考慮する必要がある。14Cの生成から生物による吸収・固定までの間に14Cが滞留する場所(海水・極氷など)をリザーバ、滞留期間中に進行する14Cの壊変の結果、生物に固定される際の14C濃度が大気中の初生14C濃度に比べて低下することをリザーバ効果とよぶ。大気も一つのリザーバであるが、大気中の炭素(CO)は1−2年で拡散・混合されるため、陸上植物が光合成によって固定する14Cの濃度と大気中の初生14C濃度の差(大気のリザーバ効果)は無視することができる。しかし、貝やサンゴなど海成試料が固定する海水中の炭酸成分に含まれる14C濃度は、COが海水に溶け込み地球規模で循環する時間(最大2000年)を通じて壊変が進むため、大気の初生14C濃度より低くなる。従って同時に生存した陸上植物と海成生物の14C年代を比較すると、海成生物は海洋のリザーバ効果によって陸上植物より古い年代を示す。日本近海の最近数千年間の外洋水では14C年代にして400年前後に相当する海水のリザーバ効果が知られている。この値は湧昇流の強弱、海流、陸水の混入、また氷期の海水準変動等の影響を受け、空間的にも時間的にも変化する。




文 献

秋田県(2003):「平成14年度 地震関係基礎調査交付金 北由利断層に関する調査成果報告書」.秋田県,127p.

秋田県(2004):「平成15年度 地震関係基礎調査交付金 北由利断層に関する調査成果報告書」.秋田県,87p.

秋田県(2005):「平成16年度 地震関係基礎調査交付金 北由利断層に関する調査成果報告書」.秋田県,51p.

Awata,Y.and Kakimi,T.(1985):Quaternary Tectonics and Damaging Earthquakes in Northeast Honshu,Japan.Earthq.Predict.Res.,3,231−251.

粟田泰夫(1988):東北日本弧内部内帯の短縮変動と太平洋プレートの運動.月刊地球,10,586−591.

粟田泰夫(2002):第四紀後期の歪み集中帯.大竹政和・平 朝彦・太田陽子編「日本海東縁の活断層と地震テクトニクス」.東京大学出版会,122−132p.

藤岡一男・大沢 穠・池邊 穣(1976):羽後和田地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,65p.

藤岡一男・大沢 穠・高安泰助・池邊 穣(1977):秋田地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,75p.

畠山 明(1954):秋田県本荘盆地東部の新第三系.地質学雑誌,60,171−184.

深沢 浩(1988):出羽丘陵内部の活断層.日本地理学会予稿集,33,2−3.

福留高明(1993):秋田県沿岸部における直下型地震と活断層.秋田大学地下資源研究彙報,25,26−52.

池原 研(2000):海底堆積物中の浮遊性有孔虫と有機炭素を用いた放射性炭素年代測定値の比較.地質調査所月報,51,299−307.

活断層研究会編(1980):「日本の活断層−分布図と資料」.東京大学出版会,363p.

活断層研究会編(1991):「[新編]日本の活断層−分布図と資料」.東京大学出版会,437p.

Kutsuzawa,A.and Kim,C.(1966):On structural analysis of the Toridame Fault.J.Min.Coll.Akita Univ.,Ser.A,4,35−51.

地震調査研究推進本部(1997):「地震に関する基盤的調査観測計画」.38p.

地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001):「長期的な地震発生確率の評価手法について」.46p.

地震調査研究推進本部地震調査委員会(2003):「日本海東縁部の地震活動の長期評価について」.62p.

中田 高・大槻憲四郎・今泉俊文(1976):東北地方の活断層の諸特徴.日本地理学会予稿集,11,219,138−139.

岡村行信・森尻理恵・佐藤幹夫(1996):1:200,000秋田西方海底地質図同説明書,海洋地質図48,36p.

大沢 穠・高安泰助・池邊 穣・藤岡一男(1977):本荘地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,50p.

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大沢 穠・片平忠実・中野 俊・土谷信之・粟田泰夫(1988):矢島地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),87p.

大沢 穠・土谷信之・片平忠実・菊地芳朗・大口健志(1989):秋田県南部−山形県北部油田地帯の深部地質構造.地質学論集,32,133−142.

白石建雄(1993):海岸砂丘の形成−秋田県の例−.土と基礎,41,25−30.

宇佐美龍夫(2003):「最新版 日本被害地震総覧[416]−2001」.東京大学出版会,605p.

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山崎晴雄・粟田泰夫・下川浩一・衣笠善博(1983):50万分の1活構造図「秋田」.地質調査所.



表3 北由利断層の地震発生確率及び参考指標
 
項  目                         数  値                  備   考
地震後経過率(注8)

今後30年以内の発生確率
今後50年以内の発生確率
今後100年以内の発生確率
今後300年以内の発生確率

集積確率(注9)
0.8以下

2%以下
3%以下
6%以下
20%以下

20%以下
発生確率及び集積確率は
地震調査研究推進本部地
震調査委員会(2001)参
照。
指標(1) 経過年数
指標(1) 比
指標(2)
指標(3)
指標(4)
指標(5)
4百年以下
1.2以下
2.1以下
20%以下
0.3以下
0.0003以下
地震調査研究推進本部地
震調査委員会長期評価部
会(1999)参照。

注14: 評価時点はすべて2006年1月1日現在。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
指標(1) 経過年数 :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。
この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。
本断層の場合、ポアソン過程を適用した場合の危険度は、3千4百−4千程度分の1(0.0003)以下であり、いつの時点でも一定である。
BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点で1千6百分の1(0.0006)以下であり、時間とともに増加する。BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達してから最大で4百年経過したことになる。
指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率を超えるまでの時間をBとした場合において、前者を後者で割った値(A/B)である。
指標(2) :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の地震発生確率の値で割った値。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。


付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

  ランク   分類条件の詳細
発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較
的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。

平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらに
より求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。

平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められ
た発生確率等の値は信頼性がやや低い。

平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、
発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる
可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないため
に、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。




<付録>

北由利断層については、秋田県によりボーリング調査などが実施され、新たな知見が得られたことから、これに基づき再検討を行い、平成18年3月14日に過去の活動履歴などについて改訂を行った。
以下に改訂となった項目とその値について、前回の評価と今回の評価の対比表を示す。なお、評価にあたっては、下表に示す数値について改訂していることに留意されるとともに、その詳細については評価文を参照されたい。


北由利断層の評価についての新旧対比表

項  目 前回の評価
(平成17年4月13日公表)
今回の評価
(平成18年3月14日公表)
平均的なずれの速度 0.6m/千年以上
(上下成分)
約0.6−0.7m/千年
(上下成分)
最新活動時期 約4200年前以後 約2800年前以後
平均活動間隔 4000年程度以下 3400−4000年程度
地震発生確率
(30年)
0.7%以上
[ポアソン過程]

2%以下
[BPT]

対比表に示した(◎、○、△)及び(a、b、c、d)については信頼度を表す。それぞれの詳細については(注3)、(注7)を参照されたい。