平成17年1月12日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


大阪湾断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について−地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、73断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、大阪湾断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


・平成26年11月21日 誤記を訂正しました


平成17年1月12日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

大阪湾断層帯の評価

大阪湾断層帯は、神戸市沿岸から大阪湾南部に位置する活断層帯である。ここでは、平成7−11年度に海上保安庁、平成10−11年度に地質調査所(現:産業技術総合研究所)によって行われた調査をはじめ、これまでこの断層帯に関して行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

大阪湾断層帯は、神戸市沿岸から大阪湾を縦断して大阪湾南部に至る断層帯である。全体として長さは約39kmで、北東−南西方向に延びており、断層帯の西側が東側に対して相対的に隆起する逆断層である(図1−1、2及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

大阪湾断層帯の平均的な上下方向のずれの速度は、約0.5−0.7m/千年であったと推定される。 大阪湾断層帯の最新活動時期は、9世紀以後であったと推定される。活動時のずれ量は約2−3.5mで、平均活動間隔は約3千−7千年であった可能性がある。

3.断層帯の将来の活動

大阪湾断層帯では、断層帯全体が1つの区間として活動し、マグニチュード7.5程度の地震が発生すると推定される。また、その時、断層近傍の地表面では北西側が南東側に対して相対的に約2−3.5m高まる段差や撓みが生ずる可能性がある(表1)。本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は、表2に示すとおりである。

4.今後に向けて

大阪湾断層帯では、断層帯の位置の北限について、精度の高い資料が得られていない。本断層帯のすぐ北には、六甲・淡路島断層帯が位置しており(図1−2)、これを構成する断層との連続の有無についても十分精度の高い資料が得られていない。また、信頼度は高くないものの、神戸港付近の分岐断層における最新活動時期は断層帯中央部付近とは異なる値との報告も見られることから、断層帯の位置と最新活動時期については、さらなる調査が必要である。

表1 大阪湾断層帯の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注3)
根  拠
(注4)
1.断層帯の位置・形態
  (1) 断層帯を構成す
   る断層
和田岬断層、摩耶 (まや) 断層、
六甲アイランド断層、大阪湾断層
  文献3、8による。
  (2) 断層帯の位置・
   形状
地表における断層帯の位置・形状
  断層帯の位置
   (北端) 北緯34°41′東経135°14′
   (南端) 北緯34°22′東経135°03′
  長さ 約39km






文献1−3、8、9による。
数値は図2から計測。
形状は図2を参照。
     地下における断層帯の位置・形状
  長さ及び上端の位置   海底での長さ・
                 位置と同じ

  上端の深さ     0km
  一般走向      N25° E


  傾斜        西傾斜、60−80°
            (地下3km以浅)


  幅         約15−20km













上端の深さが0km
であることから推定。

海底付近は撓曲。
一般走向は、断層帯の
北端と南端を直線で結
んだ方向 (図2参照)。
傾斜は、文献1、3、8、
10などに示された地質
構造、反射法音波探査
結果から推定。
幅は、断層面の傾斜と
地震発生層の下限の深
さ (約15km) から推
定。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
 北西側隆起の逆断層
文献1、3、8、10など
に示された地質構造、
反射法音波探査結果に
よる。
2.断層帯の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
 約0.5−0.7m/千年 (上下成分)
文献3、9による。
  (2) 過去の活動時期 活動1 (最新時期)
  9世紀以後
このほか、約9千5百年前以後に少なくとも
1回の活動



文献6による。

説明文参照。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量 約2−3.5m (上下成分)
平均活動間隔  約3千−7千年

文献6による。
1回のずれの量及び平
均的なずれの速度より
推定。
  (4) 過去の活動区間 断層帯全体で1区間
3.断層帯の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間    断層帯全体で1区間
地震の規模  マグニチュード7.5程度
ずれの量    約2−3.5m (上下成分)



断層の長さから推定。
文献6による。



表2 大阪湾断層帯の将来の地震発生確率等

項  目    将来の地震発生確率等   
(注5)
 信頼度 
(注6)
備  考

地震後経過率 (注7)

今後30年以内の地震発生確率
今後50年以内の地震発生確率
今後100年以内の地震発生確率
今後300年以内の地震発生確率

集積確率 (注8)


0.4以下

0.004%以下
0.007%以下
0.02%以下
0.2%以下

0.006%以下







発生確率及び集積確
率は、文献5による。

注1: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
  98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
(いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用。)
  この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率は以下のとおりである。

地震名 活動した活断層 地震発生直前の
30年確率 (%)
地震発生直前の
集積確率 (%)
断層の平均活動
間隔 (千年)
1995年兵庫県南部地震
(M7.3)
六甲・淡路島断層帯
主部 淡路島西岸区間
「野島断層を含む区間」
(兵庫県)
0.02%−8% 0.06%−80% 約1.7−約3.5
1858年飛越地震
(M7.0−7.1)
跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)
ほぼ0%−13% ほぼ0%−
90%より大
約1.7−約3.6
1847年善光寺地震
(M7.4)
長野盆地西縁断層帯
(長野県)
ほぼ0%−20% ほぼ0%−
90%より大
約0.8−約2.5

「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が3千年の場合は30年確率の最大値は約8%である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデ−タの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
    ◎:高い、○:中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
  文献1:藤田・前田(1984)
  文献2:岩淵ほか(1995)
  文献3:岩淵ほか(2000)
  文献4:岩崎ほか(1994)
  文献5:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
  文献6:七山ほか(2000)
  文献7:Sato et al.(1998)
  文献8:横倉ほか(1998)
  文献9:横倉(2000)
  文献10:横田ほか(1997)
注5: 評価時点はすべて2005年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注6: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度
a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注7: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価の数字のうち0.4は1200年を3000年で割った値である。
注8: 前回の地震発生から評価時点までの間に地震が発生しているはずの確率。



(説明)

1.大阪湾断層帯に関するこれまでの主な調査研究

大阪湾断層帯は、早川ほか(1964)が行った音波探査により、その存在が指摘された。岩崎ほか(1994)は、マルチチャンネル反射法探査により、この撓曲が基盤上では1000mを越える高度差を持つことを示し、断層であることを明瞭に示した。
岩淵ほか(1995)は、スパーカーとソノプローブを用いた音波探査により、大阪湾中西部の浅部堆積層に見られる活構造を明らかにした。また、横倉ほか(1998)は、マルチチャンネル反射法探査により、岩淵ほか(1995)が示した活構造とほぼ同じ位置において基盤が大きな高度差を持つことを示し、これら2つの文献によって大阪湾断層帯の概略位置が示された。また、Sato et al.(1998)は、淡路島から大阪湾断層を横切る反射法探査を実施した。
藤田・前田(1984)は、神戸港周辺で音波探査及び群列ボーリングを行い、神戸港付近では数本の断層が通過していることを示した。神戸港付近は、その後、島崎ほか(1996)、横田ほか(1997)、神戸市(1997,1998,1999)、七山ほか(2000)、横倉(1999,2000)などにより数多くの反射法探査、音波探査及び群列ボーリングが行われ、大阪湾断層帯の北端部の位置及び形状の特定に貢献するデータが得られた。
七山ほか(2000)は、大阪湾北部で実施した音波探査及びボーリングの結果から、本断層帯の最新活動時期を報告した。

2.大阪湾断層帯の評価結果

2.1 大阪湾断層帯の位置及び形態

(1)大阪湾断層帯を構成する断層

大阪湾断層帯は、大阪湾断層と、その北部で3条に分岐する断層からなる。
大阪湾断層帯は、神戸港付近から大阪湾の中西部を経て洲本市沖合付近に至る活断層である(図1−1、1−2、2)。本断層帯の位置は、岩淵ほか(1995)及び横倉ほか(1998)に示されている。本断層帯は、全体にわたって海底付近の地層が撓曲しているものであるが、岩淵ほか(1995)はスパーカーを用いた音波探査により、比較的浅部の変形に着目しているのに対し、横倉ほか(1998)では、エアガンを用いた反射法探査により、基盤岩上面における断層位置を示していることから、ここでは主に岩淵ほか(1995)に従った。ただし、GS−7測線(図2のE測線)以北については、藤田・前田(1984)のボーリング結果や、岩淵ほか(1995)の基盤深度分布図等も参考にしながら、横倉ほか(1998)が示す位置に従った。
大阪湾断層帯は、神戸港すぐ南方の海域で和田岬断層、摩耶(まや)断層、六甲アイランド断層の3本に分岐している。松田(1990)の起震断層の定義に基づけば、これらは単一の断層帯とみなすことができる。

(2)断層面の位置・形状

大阪湾断層帯は、北部では和田岬断層、摩耶断層、六甲アイランド断層に分岐している。これらの分岐断層の北端の位置は、文献ごとに差がある。
ここでは、各断層の北端として、藤田・前田(1984)、横田ほか(1997)、横倉ほか(1998)などの資料から読み取れる北限と考えて、和田岬断層の北端はJR貨物線神戸港駅付近、摩耶断層の北端は摩耶埠頭南東沖約1km付近、六甲アイランド断層の北端はポートアイランド東方沖約1km付近とする。
また、本断層帯の南端は、岩淵ほか(2000)によることとする。
本断層帯全体の長さ及び一般走向は、断層帯の北端(ここでは最も距離が長くなる摩耶断層北端を採用)と南端を直線で結んで約39km、N25°Eとなる。
地下の断層面の位置及び形状は、地表(海底)における断層帯の位置及び形状と地下の地質構造等から推定した。
断層面上端の深さは、撓曲による変位がほぼ地表(海底)に達していることから0kmとした。
断層面の傾斜については、岩淵ほか(2000)、藤田・前田(1984)、横倉ほか(1998)、横田(1997)、Sato et al.(1998)などによる反射法探査の結果から、少なくとも地下3km程度よりも浅いところでは、60°−80°程度(西傾斜)となっている(図3)。
また、断層面の幅については、地震発生層の下限である15km程度が断層面下端の深さと推定されることから、断層面の傾斜が地下3km以深も同様であると仮定して大まかに約15−20kmと推定した。

(3)断層帯の変位の向き(ずれの向き)(注9)

大阪湾断層帯は、反射法探査や群列ボーリングの結果及び基盤深度分布図から、断層の北西側が南東側に対して相対的に隆起する逆断層と考えられる。
なお、横倉ほか(1998)は、大阪湾周辺が東西圧縮の応力場にあること及び断層帯の走向から、横ずれ成分の存在を示唆しているが、具体的なデータが示されていないため、ここでは採用しないこととする。

2.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注9)

横倉(2000)は、反射法探査の記録を用いて、約120万年前以降の海成粘土層の埋没深度が断層面をはさんで累積的に異なることを用いて大阪湾断層帯の平均変位速度(上下成分)を求め、大阪湾断層の中部において0.5−0.7m/千年の値を、和田岬断層において0.2m/千年の値を、さらに摩耶断層及び六甲アイランド断層の平均変位速度の和として0.2m/千年の値を得た。
また、岩淵ほか(2000)は、断層帯中央部で実施した反射法探査結果で得られた上部洪積層、大阪層群上部亜層群、大阪層群中部亜層群の基底面の累積上下変位量から、平均変位速度(上下成分)として約0.6m/千年の値を得た。
ここでは、分岐断層における平均変位速度の総和が大阪湾断層の中央部における平均変位速度にほぼ対応すると考えて、以上の資料から、本断層帯の平均変位速度は、約0.5−0.7m/千年(上下成分)であったと推定される。

(2)活動時期

a)地形・地質的に認められた過去の活動

七山ほか(2000)は、神戸港付近でソノプローブによる音波探査を多数の測線で実施し、和田岬南方で大阪湾断層に直交するCo.6及びH−1測線において、A反射面以下の地層が大阪湾断層付近で緩やかに撓曲変形しているのに対し、A反射面の直上に位置するA0反射面が測線の全域に沿って水平に堆積しており、A反射面以下を傾斜不整合で覆っていることから、最新活動時期をA反射面形成以後、A0反射面形成以前であったと推定した(図4)。七山ほか(2000)は、和田岬の南西方約7kmで実施したCo.9測線及び測線の中央近くで海上保安庁が実施したOB−2ボーリングコアの解析結果より、海水のリザーバ効果(注10)を400年と仮定した暦年値でA反射面の年代値を約1千2百年前、A0反射面の年代値を約9百年前と推定しているが、A0反射面については海面直下の地層であり、ノイズを考慮するとA0反射面とされている部分が全て水平に堆積しているかどうかについては十分な信頼性がないと考えられる。ここでは、A反射面の撓曲変形のみを採用し、最新活動時期をA反射面堆積以後の9世紀以後であったと推定する。
七山ほか(2000)は、さらに1つ前の活動として、Co.6及びH−1測線のE反射面以下の地層の上下変位がA反射面と比較して有意に大きいことから、E反射面形成後D反射面形成前の約8千5百−9千5百年前にイベントを認定している。しかし、D反射面より上位にも緩やかではあるが上下変位の累積性が認められることから、D反射面形成後、A反射面形成前にも活動があった可能性を否定できないため、このイベントが1つ前の活動にあたるとは言い切れず、1つ前の活動時期は少なくとも約9千5百年前以後にあったとしか言えない。
また、岩淵ほか(2000)は、大阪湾断層帯北部で行った音波探査及びボーリングの解析結果から、暦年補正値で約8百年前の地層には変形がなく約2千4百年前以前の地層にはV字状の変形が見られること、約8千5百年前以前の地層は約4千4百年前以後の地層に比べてさらに変形の度合いが大きいことから、最新活動時期を約2千2百年前以後、約8百年前以前とし、1つ前の活動時期を約8千5百年前以後、約4千4百年前以前としている。最新活動時期については、上記年代値に海水のリザーバ効果の補正を行うと、七山ほか(2000)の報告と概ね調和的となる。一方、1つ前の活動については、示された音波探査結果からは十分な信頼度をもって読み取ることができない。
分岐断層においては、七山ほか(2000)が、和田岬付近の海底で行った音波探査及びボーリングの解析結果から、和田岬断層の最新活動時期を鬼界アカホヤ火山灰(約7千3百年前;注11)降灰直後としているが、反射記録の浅層部は大半がノイズにマスクされていることから、最新活動時期を確定させるためには信頼度が十分ではない。
このほか、摩耶断層及び六甲アイランド断層については、藤田・前田(1984)が行った音波探査及びボーリングの結果では、Ma−13層(約1万年前以後)にはほとんど変位が見られず、七山ほか(2000)も反射法音波探査から完新世における両断層の活動には否定的であるが、これらはいずれも、断層帯の最新活動時期にこれらの分岐断層が活動しなかった可能性を示唆しているに過ぎず、断層帯全体の最新活動時期を特定する上で信頼度は十分ではない。

b)先史時代・歴史時代の活動

寒川(1995)は、神戸市の郡家遺跡において5世紀後半−6世紀の噴砂現象について論じているが、大阪湾断層帯との関係は不明である。

以上の結果により、大阪湾断層帯の最新活動時期は、Co.6及びH−1測線で得られた値を採用して、9世紀以後であったと推定される。また,このほかに約9千5百年前以後に少なくとも1回の活動があった可能性がある。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注9)

七山ほか(2000)は、音波探査記録から、最新活動による変位のみを被っていると推定したA反射面以下の地層について、約2−3.5mの上下方向の変位を指摘している。この値は、断層帯の長さ(約39km)から経験式(1)、(2)を用いて得られる1回の変位量の計算値3.1mとも調和的である。
以上のことから、本断層帯の1回の変位量は、約2−3.5mであった可能性がある。
用いた経験式は、松田(1975)による次の式である。ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Mはその時のマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。

      LogL=0.6M−2.9      (1)
      LogD=0.6M−4.0      (2)

(4)活動間隔

大阪湾断層帯では、平均活動間隔に関する直接的な資料は得られていないが、平均的なずれの速度である約0.5−0.7m/千年及び1回の活動に伴う変位量(約2−3.5m)から計算すれば、平均活動間隔は約3千年−7千年であった可能性がある。
 なお、前述のように、Co.6及びH−1測線において,約9千5百年前以降に1つ前の活動があった可能性も考えられるが、それらの活動時期から得られる平均活動間隔は、上記の値とほぼ調和的である。

(5)活動区間

大阪湾断層帯は、神戸港付近以北で3条に分岐するものの、断層が連続的に分布していることから、松田(1990)の定義に基づけば、全体が1つの区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

本断層帯周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、北部で北西−南東方向の縮み、北東−南西方向の伸びが見られる。また、1985年からの約10年間では、周辺部において、北西−南東方向の縮みが見られる。最近5年間のGPS観測結果では、断層帯に沿って、ほぼ北西−南東方向の縮みが見られる。

(7)地震観測結果

本断層帯付近の地震活動は低調である。地震発生層の下限の深さは約15kmである。
なお、本断層帯の東方及び南東方の深さ約25−30kmで、低周波地震が発生している。

2.3 断層帯の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

大阪湾断層帯は、断層帯全体(長さ約39km)が1つの活動区間として活動すると推定される。
本断層帯が活動した場合、前述の経験式(1),(2)からマグニチュード7.5程度の地震が発生すると推定され、その際には断層帯の東側が西側に対して相対的に約2−3.5m高まる段差や撓みを生ずる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

本断層帯では、過去の活動に基づく平均活動間隔が約3千−7千年の可能性があり、最新活動時期が9世紀以後と推定されていることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は、0.4以下となり、また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ0.004%以下、0.007%以下、0.02%以下、0.2%以下となる。また、現在までの集積確率は0.006%以下となる(表2)。

3.今後に向けて

大阪湾断層帯では、断層帯の位置の北限について、精度の高い資料が得られていない。本断層帯のすぐ北には、六甲−淡路断層帯が位置しており(図1−2)、これを構成する断層との連続の有無についても十分精度の高い資料が得られていない。また、信頼度は高くないものの、神戸港付近の分岐断層における最新活動時期は断層帯中央部付近とは異なる値との報告も見られることから、断層帯の位置と最新活動時期については、さらなる調査が必要である。

注9: 「変位」を、1ページの本文及び4ページの表1では、一般的にわかりやすいように、「ずれ」という言葉で表現している。ここでは、専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓みの成分」よりなる。
注10: 放射性炭素同位体年代測定では、宇宙線によって14Cが生成されてから、生物に固定されるまでの時間を考慮する必要がある。14Cの生成から生物による吸収・固定までの間に14Cが滞留する場所(海水・極氷など)をリザーバ、滞留期間中に進行する14Cの壊変の結果、生物に固定される際の14C濃度が大気中の初生14C濃度に比べて低下することをリザーバ効果とよぶ。大気も一つのリザーバであるが、大気中の炭素(CO2)は1〜2年で拡散・混合されるため、陸上植物が光合成によって固定する14Cの濃度と大気中の初生14C濃度の差(大気のリザーバ効果)は無視することができる。しかし、貝やサンゴなど海成試料が固定する海水中の炭酸成分に含まれる14C濃度は、CO2が海水に溶け込み地球規模で循環する時間(最大2000年)を通じて壊変が進むため、大気の初生14C濃度より低くなる。従って同時に生存した陸上植物と海成生物の14C年代を比較すると、海成生物は海洋のリザーバ効果によって陸上植物より古い年代を示す。日本近海の最近数千年間の外洋水では14C年代にして400年前後に相当する海水のリザーバ効果が知られている。この値は湧昇流の強弱、海流、陸水の混入、また氷期の海水準変動等の影響を受け、空間的にも時間的にも変化する。
注11: 鬼界アカホヤ(K−Ah)火山灰の噴出年代は、町田・新井(2003)に従い、約7千3百年前とした。

文 献

荒木龍介・石丸恒在・藤原 治(1995):音波探査による神戸沖海域の活断層調査―活断層の分布及び累積変位量の調査手法の検討―.応用地質学会中部支部研究発表会,174−177.

荒木龍介・石丸恒在・藤原 治(1996):神戸沖に見られる大阪湾断層の完新世における累積変位について.1996年地球惑星科学関連学会合同大会予稿集,J11−15.

早川正巳・森 喜義・鎌田清吉・藤田和夫(1964):放電式音波探査による大阪湾地質構造の研究.地質調査所月報,15,1−28.

藤田和夫(1966):大阪湾の地質構造的意義.松下進教授記念論文集,133−141.

藤田和夫・前田保夫(1984):「須磨地域の地質」.地域地質研究報告(5万分の1図幅),地質調査所,101p.

岩淵 洋(2000):大阪湾と伊勢湾の活構造.第四紀研究,39,303−314.

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島崎邦彦・中田 高・岡村 真・石丸恒在・米田茂夫・荒木龍介・千田 昇・岡野憲太・蓬田 清・松岡浩美・吉岡 崇・露口耕治・栗本貴生・柴田俊彦・木下博久(1996):神戸沖活断層調査:1995年兵庫県南部地震前後の音波探査記録の比較.平成7年兵庫県南部地震緊急地殻活動調査報告論文集,149−159.

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横倉隆伸・山口和雄・加藤直巳・宮崎光旗・井川 猛・太田陽一・川中 卓・阿部 進(1998):神戸・芦屋周辺地域における反射法深部構造探査.地質調査所速報,50,245−267.

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表3 大阪湾断層帯の将来の地震発生確率及び参考指標

項  目                数   値            備   考
地震後経過率 (注7)

今後30年以内の発生確率
今後50年以内の発生確率
今後100年以内の発生確率
今後300年以内の発生確率

集積確率 (注8)
0.4以下

0.004%以下
0.007%以下
0.02%以下
0.2%以下

0.006%以下


発生確率及び集積確率は地
震調査研究推進本部地震調
査委員会 (2001) 参照。
指標(1)  経過年数
        比
指標(2)
指標(3)
指標(4)
指標(5)
 マイナス4千9百年 − マイナス9百年 
0.6以下
0.003以下
0.006%以下
0.0004以下
0.0001 − 0.0003

地震調査研究推進本部地震
調査委員会長期評価部会
(1999) 参照。

注12: 評価時点はすべて2005年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
指標(1) 経過年数 :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。
この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。ポアソン過程を適用した場合の危険率は、7千分の1(0.0001)−4千分の1(0.0003)程度であり、いつの時点でも一定である。
BPT分布モデルを適用した場合の危険率は時間とともに増加する。BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達するには、まだ9百年から4千9百年を要することになる。
指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率を超えるまでの時間をBとした場合において、前者を後者で割った値(A/B)である。
指標(2) :BPT分布モデルを適用した場合と、ポアソン過程を適用した場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率の値をBPT分布モデルでとりうる最大の地震発生確率の値で割った値。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。

付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

  ランク   分類条件の詳細
発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高
く (◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。

平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く (△)、これらにより
求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。

平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く (△)、これらにより求められた発
生確率等の値は信頼性がやや低い。

平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く (▲)、発
生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性
が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の
確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。