平成16年9月8日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


木津川断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、59断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、木津川断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


平成16年9月8日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

木津川断層帯の評価

木津川断層帯は、三重県西部から京都府南東部に分布する活断層帯である。ここでは、平成10−11年度に地質調査所(現:産業技術総合研究所)によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

木津川断層帯は、三重県阿山(あやま)郡伊賀町から京都府相楽(そうらく)郡笠置(かさぎ)町に至る断層帯である。長さは約31kmで、ほぼ東北東―西南西方向に延びる相対的に北側が隆起する逆断層で、右横ずれ成分を伴う(図1−1、2及び表1)。なお、本断層帯の東端付近には、頓宮断層がほぼ南北に分布する(図1−2)。

2.断層帯の過去の活動

木津川断層帯の最新活動時期は、1854年(安政元年)の伊賀上野地震と推定される。また、平均的な活動間隔は約4千−2万5千年であった可能性がある(表1)。

3.断層帯の将来の活動

木津川断層帯は、全体が1つの区間として活動すると推定され、マグニチュード7.3程度の地震が発生すると推定される。この場合、断層の北側が南側に対して相対的に2.5m程度高くなる段差を生じ、右横ずれを伴う可能性がある(表1)。本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率を算出すると表2に示すとおりとなる(注1、2)。

4.今後に向けて

木津川断層帯では、平均活動間隔に関する信頼度の高いデータが得られていないなど、断層帯の特性が精度よく求められていない。このため、本断層帯について、活動時期や平均的なずれの速度及び1回のずれの量など、過去の活動に関する精度のよい資料を得る必要がある。


表1 木津川断層帯の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注3)
根  拠
(注4)
1.断層帯の位置・形態
  (1)断層帯を構成す
  る断層
伊賀断層、音羽(おとわ)断層、島ヶ原断層
  文献4、5による。
  (2)断層帯の位置・
  形状
地表における断層の位置・形状

 断層の位置
  (北端)北緯34°51′東経136°16′
  (南端)北緯34°45′東経135°56′
 長さ     約31km









文献4、5による。
数値は図2から計測。
     地下における断層面の位置・形状
 長さ及び上端の位置
            地表での長さ・位置と同じ

 上端の深さ  0km
 一般走向   N70°E



 傾斜      40−60°北傾斜
           (地表付近)

 幅        不明















上端の深さが0kmで
あることから推定。


一般走向は断層帯
の東端と西端を直
線で結んだ方向
(図2参照)。
傾斜は、地形の特徴
や断層露頭から推
定(文献2、3、5)。
地震発生層の深さ
の下限は約15km。
  (3)断層のずれの向
  きと種類
 北側隆起の逆断層で右横ずれ成分を伴う
地形の特徴などに
よる。
2.断層帯の過去の活動
  (1)平均的なずれの
  速度
 0.1−0.6m/千年(上下成分)


文献2による。
  (2)過去の活動時期  活動1(最新活動)
   1854年(安政元年)の伊賀上野地震
    (トレンチからは16世紀以後)

 活動2(1つ前の活動時期)
   8世紀以前
 







文献2、3、6に示
された資料から推
定。

文献2に示された資
料から推定。
  (3)1回のずれの量
  と平均活動間隔
1回のずれの量:  2.5m程度
              (上下成分)
平均活動間隔:   約4千−2万5千年



文献2による。

平均的なずれの速度
と1回のずれの量か
ら推定。
  (4)過去の活動区間 断層帯全体で1区間 断層の地表形態から
推定。
3.断層帯の将来の活動
  (1)将来の活動区間
  及び活動時の地
  震の規模
活動区間    断層帯全体で1区間

地震規模     マグニチュード7.3程度
ずれの量    2.5m程度
           (上下成分)



断層の地表形態から
推定。
断層の長さから推定。
過去の活動から推定。

 

表2 木津川断層帯の将来の地震発生確率等

項   目

将来の地震発生確率等
(注5)

信頼度
(注6)

備   考

地震後経過率(注7)

今後30年以内の地震発生確率
今後50年以内の地震発生確率
今後100年以内の地震発生確率
今後300年以内の地震発生確率

集積確率(注8)

0.006-0.04

ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%

ほぼ0%

 

b

 

 

発生確率及び集積確率は、文献1による。

 

 


注1: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
  98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満
98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
(いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用)
  この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率 (うち、1995年兵庫県南部地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)による暫定値)は以下のとおりである。

地震名

地震を引き起こした活断層

地震発生直前の30年確率(%)

地震発生直前の集積確率(%)

断層の平均活動間隔(千年)

1995年兵庫県南部地震
(M7.3

野島断層
(兵庫県)

0.4 %−8 %

%80%

1.8−約3.0

1858年飛越地震
(M7.07.1

跡津川断層帯
(岐阜県・富山県)

ほぼ0%13 %

ほぼ0%90%より大

1.7−約3.6

1847年善光寺地震
(M7.4

長野盆地西縁断層帯
(長野県)

ほぼ0%−20%

ほぼ0%90%より大

0.8−約2.5


「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が1万年の場合は30年確率の最大値は3%程度、2万年の場合は1%程度である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
    ◎:高い、○:中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
  文献1:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
  文献2:苅谷ほか(1999)
  文献3:苅谷ほか(2000b)
  文献4:活断層研究会編(1991)
  文献5:岡田・東郷編(2000)
  文献6:宇佐美(2003)
注5: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10-3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注6: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度  
a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注7: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価の数字で、0.006は150年を2万5千年で割った値であり、0.04は150年を4千年で割った値。
注8: 前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率。


(説明)

1.木津川断層帯に関するこれまでの主な調査研究

本断層帯が位置する上野盆地周辺は、今村(1911)による1854年(安政元年)の伊賀上野地震に伴う地変の調査や辻村(1926,1932)、多田(1926)らの断層崖調査などにより古くから注目されてきた。また、中村新太郎(1934)は木津川断層という名称を始めて使用した。さらに、横田ほか(1976,1978)は1854年(安政元年)の伊賀上野地震に伴う地震断層を報告したほか、断層露頭の調査を実施した。

萩原(1982)、中西ほか(1999a,b)、都司(2001)、宇佐美(2003)等は歴史資料調査から、当断層帯と1854年(安政元年)の伊賀上野地震(マグニチュード7 1/4±1/4:宇佐美,2003)との関係を報告した。

苅谷ほか(1999,2000b)はトレンチ調査等を行い、活動履歴について考察した。

2.木津川断層帯の評価結果

木津川断層帯は、三重県阿山(あやま)郡伊賀町から上野市、阿山郡島ヶ原(しまがはら)村、京都府相楽(そうらく)郡南山城村を経て、同郡笠置(かさぎ)町に至る断層帯である。本断層帯は、断層の分布位置等から松田(1990)の起震断層の定義に基づけば、単一の断層帯とみなすことができる。
木津川断層帯の東端付近(伊賀町の三重・滋賀県境付近)では、別の基盤的調査観測対象断層帯である頓宮(とんぐう)断層がほぼ南北に分布する(図1−2;地震調査研究推進本部地震調査委員会,2004)。頓宮断層は花崗岩と鮮新統の古琵琶湖層群との境界をなす大規模な地質断層であり(宮村ほか,1981)、さらに本断層帯東端付近の伊賀町柘植(つげ)地点において、頓宮断層を挟んで約2万年前とされる扇状地面に上下変位が認められている(苅谷ほか,2000a)。よって、木津川断層帯は、頓宮断層を横切って東方に延長していないと判断し東方延長に分布する鈴鹿坂下断層については、本断層帯には含まれないものとした。

また、本断層帯の北方には長さ約17kmの信楽断層帯が、西方には長さ約15kmの和束谷(わづかだに)断層が約10km以内に分布するが(活断層研究会編,1991)、ともに長さが20km未満と地震調査研究推進本部(1997)の基準に満たないため、詳細な評価の対象としなかった(図3)。

2.1 木津川断層帯の位置及び形態

(1)木津川断層帯を構成する断層

本断層帯は、おおむね東北東から、伊賀断層、音羽(おとわ)断層及び島ヶ原断層から構成される(図1、2、注9)。
本断層帯を構成する各断層の位置・形態は、活断層研究会編(1991)、岡田・東郷編(2000)、苅谷ほか(2000b)、水野ほか(2000)、中田・今泉編(2002)などに示されている。本断層帯の西部での位置はこれらの資料でほぼ一致している。
ここでは、本断層帯を構成する断層の位置は、活断層研究会編(1991)及び岡田・東郷編(2000)により、名称は岡田・東郷編(2000)によった。

(2)断層面の位置・形状

本断層帯全体の長さ及び一般走向は、図2に示された断層帯の西端を直線で結ぶとそれぞれ約31 km、N70°Eとなる。ここで、本断層帯の東端の位置については、前述のとおり宮村ほか(1991)及び活断層研究会編(1991)に基づき伊賀町北部の三重・滋賀県境付近とした。
断層面上端の深さは、断層変位が地表に達していることから0kmとした。
断層面の傾斜は、断層露頭やトレンチ壁面に認められる断層の傾斜などから、地表付近では40−60°の北傾斜と推定される。
断層面の下端の深さは、地震発生層の下限の深さが約15kmと推定されることから、15km程度と推定されるが、断層面の幅は不明である。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注10)

本断層帯は、断層変位地形や断層露頭などから、相対的に北側が隆起する逆断層で右横ずれ成分を伴っていると考えられる。なお、音羽断層の少なくとも一部については、相対的に南側が隆起するずれの成分を伴っていると推定される。

2.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注10)

苅谷ほか(2000b)は、断層帯の最西端部を除くほぼ本断層帯の全域で、堆積物の14C年代値(注11)から約1万―3万年前に形成されたと考えられるL2面に4−6mの上下変位が認められるとし、平均上下変位速度を0.13−0.6m/千年と求めている。
以上により、本断層帯の平均上下変位速度は、0.1−0.6m/千年の可能性がある。
なお、平均右横ずれ変位速度に関する具体的な資料はない。

(2)活動時期

○地形・地質的に認められた過去の活動

a)東高倉地点
苅谷ほか(1999)は、伊賀断層の上野市東高倉地点でトレンチ調査等を行い(図4)、飛鳥・奈良時代から室町・安土桃山時代の土器片を多産するB(U)層が断層変位を受け、近世以後の堆積物であるA層に覆われるとしている。苅谷ほか(1999)によれば、B(U)層で得られている14C年代値は、同一層準から出土した土器の年代に比べ明らかに古く、再堆積した試料を測定した可能性が高いため、出土した土器の年代に従って16世紀以後に最新活動があったと推定される。

また、苅谷ほか(1999)によると、同じトレンチで7−8世紀の14C年代値を示すC(V)層までは変位の累積がみられないことから、1つ前の活動時期は少なくとも8世紀以前と推定される。

b)奥田地点
苅谷ほか(2000b)は、島ヶ原断層の京都府相楽郡南山城村奥田地点でトレンチ調査等を行い(図5)、14−15世紀の14C年代値を示すH層が断層で切られG層に覆われるとしている。G層から得られた年代試料は谷壁の崩壊等により汚染されていると考えられるため、上位の15−17世紀の14C年代値を示すD層の年代値を用い、14−17世紀に最新活動があったとしている。E層は谷の下流方向にゆるやかに傾斜しているが、D層はこの傾斜とは無関係に階段状の平坦面を作るように分布しており、その直上に水田土壌(C層)がみられる。このため、D層は水田造成にともなう人為的な地層である可能性が高く、この地点での断層の最新活動時期はH層堆積後(14世紀以後)としか言えない。

上記2地点のトレンチ調査結果に基づいて、苅谷ほか(1999,2000b)は、断層帯東部の伊賀断層と断層帯西部の島ヶ原断層が別々の時期に活動した可能性を示唆している。しかしながら、前述のように奥田地点では14世紀以後に最新活動があったとしか言えないことから、断層帯全体が16世紀以後に活動した可能性があるとして矛盾しない。

○先史時代・歴史時代の活動

横田ほか(1976)、萩原(1982)は、現地調査等から1854年(安政元年)の伊賀上野地震が本断層帯の活動による地震である可能性を言及した。ただし、苅谷ほか(1999)は横田ほか(1976)が指摘した地震断層は地すべりによる滑落崖の疑いがあると指摘している。

また、宇佐美(2003)は、四日市から伊賀上野、奈良、大和郡山に至る地域で、1854年(安政元年)の伊賀上野地震による甚大な被害が発生したとし、これが本断層帯の活動によるものであるとしている。さらに、この伊賀上野地震は顕著な前震及び余震活動を伴い、最大余震と考えられる地震でも被害を生じたとの指摘がある(都司,2001)。

なお、伊賀上野地震については、被害が北陸地域まで及んでいるとし、強震動の計算結果に合うことからフィリピン海プレート内とする報告もある(中村操,2001)。

以上のことから、上述のトレンチ調査結果及び歴史時代の被害地震記録を総合すると、木津川断層帯の最新活動は1854年(安政元年)の伊賀上野地震と推定される。また、1つ前の活動時期は、トレンチ調査結果から少なくとも8世紀以前であったと推定される。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注10)

苅谷ほか(2000)は、前述の東高倉地点で実施したボーリング結果から上下変位量について2.4mの可能性があるとしている。また、本断層帯は長さが約31kmであることから、松田(1975)による経験式(1)、(2)を用いると、1回の活動に伴う変位量は2.5mと求められ、苅谷ほか(1999)による値と矛盾しない。
以上のことから、1回の活動に伴う本断層帯の上下変位量は2.5m程度である可能性がある。なお、横ずれ変位量に関しては数値を限定できるような資料はない。
用いた経験式は次の式である。ここで、Lは断層の長さ(km)、Mはマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。

      Log L = 0.6M − 2.9    (1)
      Log D = 0.6M − 4.0    (2)

(4)活動間隔

前述のように、トレンチ調査結果から本断層帯の最新活動時期が1854年(安政元年)の伊賀上野地震と推定されるものの、過去の活動時期から平均活動間隔を求めることはできない。一方、平均上下変位速度が0.1−0.6m/千年、上下方向の1回のずれの量が2.5m程度の可能性があることから、平均活動間隔は約4千−2万5千年である可能性がある。

(5)活動区間

本断層帯は断層がほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば全体が1つの区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

本断層帯周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、ほぼ東西方向の縮みが見られる。1985年から約10年間の測地観測結果では、この断層帯周辺で北東−南西及び北西−南東のわずかな縮みが見られる。最近5年間のGPS観測結果では、顕著な縮みは見られない。

(7)地震観測結果

本断層帯周辺の最近約5年間の地震観測結果によれば、断層帯西部の地震活動は比較的活発で、断層帯東部では比較的低調である。本断層帯付近の地震発生層の下限の深さは約15kmである。

2.3 断層帯の将来の活動

(1)将来の活動区間及び地震の規模

木津川断層帯は、全体が1つの活動区間として活動すると推定される。この場合、断層帯の長さが約31kmであることから、経験式(1)を用いると、発生する地震の規模はマグニチュード7.3程度と推定される。また、この際に、断層帯の北側が南側に対して相対的に2.5m程度高くなる段差を生じ、右横ずれを伴う可能性がある。

(2)地震発生の可能性

本断層帯は、平均活動間隔が約4千−2万5千年、最新活動時期が1854年(安政元年)の伊賀上野地震と推定されることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は、0.006−0.04となり、また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、いずれもほぼ0%となる。また、現在までの集積確率は、ほぼ0%となる。表3にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。

3.今後に向けて

木津川断層帯では、平均活動間隔に関する信頼度の高いデータが得られていないなど、断層帯の特性が精度よく求められていない。このため、本断層帯について、活動時期や平均的なずれの速度及び1回のずれの量など、過去の活動に関する精度のよい資料を得る必要がある。

注9: 活断層研究会編(1991)は、伊賀断層を木津川断層帯東部、音羽断層と島ヶ原断層を木津川断層帯西部としている。
注10: 「変位」を、1ページの本文、4、5ページの表1では、一般的にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注11: 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値については、百年単位で四捨五入して示した。また、10,000年BPより古い炭素同位体年代については、Kitagawa and van der Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正し、四捨五入して1千年単位で示した。

文 献

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井上公夫・今村隆正(1999):高田地震(1751)と伊賀上野地震(1854)による土砂移動.歴史地震,15,107−116.

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表3 木津川断層帯の将来の地震発生確率及び参考指標

項  目         数  値         備   考
地震後経過率

 今後30年以内の発生確率
 今後50年以内の発生確率
 今後100年以内の発生確率
 今後300年以内の発生確率

集積確率
0.006−0.04

ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%

ほぼ0%



発生確率及び集積確率は地
震調査研究推進本部地震調
査委員会(2001)参照。
 指標(1)経過年数
      比
 指標(2)
 指標(3)
 指標(4)
 指標(5)
マイナス1万7千年−マイナス2千8百年
0.01−0.05
ほぼ0
ほぼ0%
ほぼ0
0.00004−0.0003

地震調査研究推進本部地震
調査委員会長期評価部会
(1999)参照。

注12: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。
指標(1) 経過年数 :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。
この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。本断層帯の場合、ポアソン過程を適用した場合の危険率は、4千分の1−2万5千分の1(0.00004−0.0003)であり、いつの時点でも一定である。
BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点でほぼ0%であり、時間とともに増加する。BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達するには2万5千分の1であれば今後1万7千年を要し、4千分の1であれば今後約2千8百年を要する。
指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率を超えるまでの時間をBとした場合において、前者を後者で割った値(A/B)である。
指標(2) :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率の値をBPT分布モデルでとりうる最大の地震発生確率の値で割った値。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。

付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

ランク

               分類条件の詳細

発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。

平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。 

平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性がやや低い。


 

平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。