平成16年5月14日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


関谷断層の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について−地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、54断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、関谷断層について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


平成16年5月14日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

関谷断層の評価

関谷(せきや)断層は、栃木県北部、那須野原の西縁に沿って延びる活断層である。ここでは、平成12、13年度に産業技術総合研究所(旧地質調査所)によって実施された調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層の諸特性を次のように評価した。

1.断層の位置及び形態

関谷断層は、那須岳北方の福島−栃木県境から、栃木県黒磯市、那須郡塩原町、矢板市を経て、塩谷(しおや)郡塩谷町北東部に至る活断層である。長さは約38kmで、断層の西側が東側に対して相対的に隆起する逆断層である(図1、2及び表1)。

2.断層の過去の活動

関谷断層の平均的な上下方向のずれの速度は、概ね1m/千年の可能性があり、最新の活動は14世紀以後、17世紀以前と推定される。本断層の平均的な活動間隔は約2千6百−4千1百年と推定される(表1)。

3.断層の将来の活動

関谷断層は、全体が1つの活動区間として活動する場合、マグニチュード7.5程度の地震が発生すると推定される。また、その時、断層近傍の地表面では、西側が東側に対して相対的に3m程度高まる段差や撓みが発生する可能性がある(表1)。関谷断層の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は、表2に示すとおりである(注1、2)。

4.今後に向けて

関谷断層の活動に伴う1回のずれの量と平均的なずれの速度については、精度の良い数値が得られていない。よって、これらの項目に関し、精度のよい資料を得ることが望ましい。

表1 関谷断層の特性

項 目

特  性

信頼度
(注3)

根 拠
(注4)

1.断層の位置・形態

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1) 構成する断層

関谷断層

 

文献3による。

(2) 断層の位置・形状

 

 

 

 

 

 

 

 

地表における断層の位置・形状

 断層の位置
  (北端)北緯37° 9′東経139°56
  (南端)北緯36°49′東経139°51

 長さ     約38km 

 





 

文献3,7による。

位置及び長さは図2から計測。 

地下における断層面の位置・形状  

 長さ及び上端の位置 地表での長さ・

位置と同じ

 上端の深さ  0km

 一般走向   N10°E

 傾斜     約1540°西傾斜
        (地表付近)

 幅      不明









上端の深さが0
kmであることから推定。


一般走向は、断層の両端を直線で結んだ方向(図2参照)。

傾斜は、文献1,-6に示された断層露頭やトレンチ調査の結果による。
地震発生層の深さの下限は15km程度。

(3) 断層のずれの向きと種類

西側隆起の逆断層

 

 

 

 

文献3,7等に示された地形・地質の特徴による。

2.断層の過去の活動

 

 

 

 

(1) 平均的なずれの速度

概ね1m/千年(上下成分)

文献1,,,7等に示された資料から推定。

(2) 過去の活動時期

活動1(最新活動)
 14世紀以後、17世紀以前


活動2(1つ前の活動)
 約5千1百年前以後、約3千9百年前以前


活動3(2つ前の活動)

 約8千4百年前以後、約5千8百年前以前

 

 



 

文献4,,10に示された資料から推定(説明文2.2.(2)b)参照)
 

文献4,5に示された資料から推定。

 

文献6に示された資料から推定。

(3) 1回のずれの量と平均活動間隔

1回のずれの量 m程度(上下成分)

平均活動間隔  約2千6百−4千1百年



断層の長さから推定。

過去3回の活動から推定。

(4) 過去の活動区間

活動区間    断層全体で1区間

 

 

断層の位置関係・形状等から推定。

3.断層の将来の活動

 

(1) 将来の活動区間及び活動時の地震の規模

 

 

活動区間    断層全体で1区間

 

地震の規模   マグニチュード7.5程度


ずれの量    m程度(上下成分)




 

断層の位置関係・形状等から推定。

断層の長さから推定。

断層の長さから推定。

 

表2 関谷断層の将来の地震発生確率等

項   目

将来の地震発生確率等
(注5)

信頼度
(注6)

備   考


地震後経過率(注7) 

今後30年以内の地震発生確率
今後50年以内の地震発生確率
今後100年以内の地震発生確率
今後300年以内の地震発生確率

集積確率(注8)
 
0.070.3

ほぼ0
ほぼ0
ほぼ0
ほぼ0%−0.003

ほぼ0

 





a

 

  

発生確率及び集積確率は文献2による。



注1: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
  98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
  98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満
  98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
 (いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用。)
この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率 (うち、1995年兵庫県南部地震と1858年飛越地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)による暫定値)は以下のとおりである。

地震名

活動した活断層

地震発生直前の30年確率 (%)

地震発生直前の集積確率 (%)

断層の平均活動間隔 (千年)

1995年兵庫県南部地震

M7.3

野島断層

(兵庫県)

0.4%8%

2%80%

1.8−約3.0

1858年飛越地震

M7.07.1

跡津川断層

(岐阜県・富山県)

ほぼ0%10%

ほぼ0%

90%より大

1.9−約3.3

1847年善光寺地震

M7.4

長野盆地西縁断層

(長野県)

ほぼ0%20%

ほぼ0%

90%より大

0.8−約2.5

「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が3千年の場合は30年確率の最大値は8%程度、4千年の場合は30年確率の最大値は6%程度である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデ−タの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
     ◎:高い、○中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
    文献1:早川(1985)
    文献2:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
    文献3:活断層研究会編(1991)
    文献4:宮下ほか(2001a)
    文献5:宮下ほか(2002a)
    文献6:宮下ほか(2002b)
    文献7:中田・今泉編(2002)
    文献8:寒川・室井(1989)
    文献9:渡子ほか(1998)
    文献10:宇佐美(2003)
注5: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。
注6: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
   a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
   発生確率等の評価の信頼度
a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注7: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回評価した数字のうち0.07は300年を4100年で割った値であり、0.3は700年を2600年で割った値である。
注8: 前回の地震発生から評価時点までの間に地震が発生しているはずの確率。

(説明)

1.関谷(せきや)断層に関するこれまでの主な調査研究

矢部(1929)は高原火山一帯において地質踏査を実施し、新第三系を変位させる地質断層を報告した。田山(1929)は段丘面形成後の地殻運動について考察を行い、高原火山東縁の断層は第三紀断層であるとした。また、新野(1933a,b)は下野山地周辺で沖積層を切る断層を見出し、本断層を関谷断層と命名した。一方、辻村(1932)は、本断層を下野断層系の一部とされる安戸山断層群に対応するとし、岩生・今井(1955)は関谷断層に相当する断層を安戸山の大断層とした。その後、阿久津(1962)、Akutsu(1964)は那須野原周辺で地質踏査を行い、那須野面などを変位させる断層を関谷構造線(Sekiya flexure)と命名した。また、加藤(1964)は本地域に分布する活断層を関谷断層と呼称した。

本断層の第四紀における特性に関する研究としては、活断層研究会編(1980,1991)、早川(1985)、渡子ほか(1998)、宮下ほか(2001a,b,2002a,b)、中田・今泉編(2002)等がある。活断層研究会編(1980,1991)、中田・今泉編(2002)は、本断層の位置及び活動性を示した。早川(1985)は関谷断層周辺で、空中写真判読及び地質踏査を行い、本断層の形状や平均変位速度について検討した。渡子ほか(1998)は黒磯市百村(もむら)で浅層反射法弾性波探査を行った。また、宮下ほか(2001a,b,2002a,b)は黒磯市百村と塩原町関谷でトレンチ調査を行い、過去の活動履歴を推定した。なお、寒川・室井(1989)は、歴史時代の被害地震の記録や地震考古学上の知見から関谷断層と日光地震との関係について報告している。

2.関谷断層の評価結果

2.1 関谷断層の位置及び形態

(1)関谷断層を構成する断層

関谷断層は、那須岳西側山腹から那須野原の西縁に沿って、那須岳北方の福島−栃木県境から、栃木県黒磯市、那須郡塩原町、矢板市を経て、塩谷(しおや)郡塩谷町北東部に延びる活断層である(図1、2)。

本断層の位置・形態は、活断層研究会編(1980,1991)、中田・今泉編(2002)等に示されており、主要断層の分布についてほぼ共通する認識が示されている。ここでは、断層の位置は主に中田・今泉編(2002)に基づき、黒磯市板室(いたむろ)以北及び矢板市兵庫畑(ひょうごはた)以南の区間に関しては活断層研究会編(1991)に従った。断層の名称は活断層研究会編(1991)によった。

(2)断層面の位置・形状

関谷断層の長さ及び一般走向は、図2に示された断層の北端と南端を直線で結ぶと、約38km、N10°Eとなる。このうち、断層の北端部付近の4km区間に関しては、那須岳の新期の溶岩流等が一部に分布することから断層変位地形が不明瞭となる。

断層面上端の深さは、変位地形や断層露頭が認められていることから0kmとした。

断層面は、トレンチ調査(15−40°西傾斜:宮下ほか,2001a,b,2002a,b)や新第三紀と段丘礫層との断層露頭観察結果(35−40°西傾斜:早川,1985)から、地表付近では約15−40°西傾斜と推定される。

なお、渡子ほか(1988)は浅層反射法弾性波探査の結果から、深さ300m以浅において西に30−40°程度傾斜する断層面群を図示している。しかし、それらの断層面群は不明瞭であり、渡子ほか(1988)でも不確実であることに言及していることから、ここでは採用しない。

断層面の幅は、地下における断層面の傾斜が明らかではないため、不明である。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注9)

関谷断層は、東向きの撓曲崖や逆向きの副次的断層を伴うこと、断層露頭やトレンチ壁面に認められる変位の向き、及び南部において幅1km程度の範囲で新第三紀−第四紀中期更新世の地層(高原火山噴出物)が東に急傾斜すること(岩生・今井,1955;活断層研究会編,1991)等から判断すると、西側が東側に対して相対的に隆起する逆断層と考えられる。

横ずれ成分を示す直接的な資料は知られていない。

なお、本断層と直交して分布する湯本塩原断層群が火山性の割れ目火口列であるとされていること(中村ほか,1987;活断層研究会,1991;鈴木,2000)からも、関谷断層は西北西−東南東に圧力軸を持つ地殻応力によって形成された逆断層の可能性があるといえる。

2.2 関谷断層の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注9)

関谷断層中央部付近の塩原町関谷では、本断層の変位による累積的な段丘面の隆起が認められる(早川,1985;活断層研究会編,1991;中田・今泉編,2002)。このうち、断層の上盤側に分布する関谷上位段丘(4万年前:注10)と下盤側のより新期の段丘面との高度差が40m程度であることに基づくと、関谷上位段丘形成以降の平均上下変位速度は1.0m/千年以上と推定される。また、関谷下位段丘2(2万8千年前以降:注10)は断層の両側に分布し、その上下変位量は約20mとされている(早川,1985;活断層研究会編,1991;中田・今泉編,2002)。これに基づくと、平均上下変位速度は0.7m/千年より大きいことになる。

関谷断層の北部の那珂川右岸(黒磯市百村)では、那須野ヶ原扇状地堆積物1に約20mの上下変位が認められるとしている(早川,1985)。また、後述するトレンチ調査において、那須野ヶ原扇状地堆積物1を構成する砂礫層の上位に日光男体沓掛スコリア3(約1.6万年前:鈴木,1993)の分布が確認されている(宮下ほか,2001a)。これらに基づくと、平均上下変位速度は、1.3m/千年程度と推定される。

このほか黒磯市百村の南部では、浅層反射法弾性波探査結果から、断層の沈降側に厚さ150m程度の第四系(川崎層群及び上位層)に覆われて、厚さ300mの白河火砕流堆積物(100−140万年前:山元・伴,1997)が分布する可能性があるとされている(渡子ほか, 1998)。この結果は、断層の沈降側での埋没速度が長期的には大きくないことを示唆する。また、本断層南部の塩原町宇都野では、高位面の上下変位量が100m程度とされている(中田・今泉編,2002)。この高位面が分布する地域には、約30万年前頃(鈴木, 2000)とされる高原火山の第1期の噴出物(伴・高岡,1995;岩生・今井, 1955の高原凝灰角礫岩)が分布していることから、高位面の形成時期は少なくとも30万年前頃よりは新しい可能性がある。したがって、ここでの平均上下変位速度は0.3m/千年よりも大きい可能性がある。

以上の検討結果に基づき、関谷断層の平均上下変位速度は概ね1m/千年の可能性があるとした。

(2)活動時期

a)地形・地質的に認められた過去の活動

関谷断層では、本断層北部の黒磯市百村地点(宮下ほか,2001a,b,2002a)及び本断層南部の塩原町関谷地点(宮下ほか,2002b)でトレンチ調査が実施され、過去の活動時期が推定されている。

@ 百村地点


宮下ほか(2001a,b,2002a)は、本断層北部に位置する那珂川支流の木ノ俣川の右岸(黒磯市百村)において、3箇所でトレンチ調査を実施した。

○トレンチA

トレンチAは那須野ヶ原扇状地堆積物2(低位面)上で、撓曲部の下端に位置する断層崖を横切るように掘削された。トレンチAの南・北両壁面の中央部には、2つの逆断層(AF1断層,AF2断層)が40−70cmの間隔で、約40°西傾斜で分布する。これらの断層は、A5層を上下に約2m変位させ、A2’層(隆起側のA2層起源の崩積性堆積物:宮下ほか,2001a,b)に覆われる。宮下ほか(2001a,2002a)は、下盤側に楔状に分布するA4層に関し、その分布形態と層相から、断層活動に伴って形成された崩積性堆積物であると推定している。A4層が崩積性堆積物であるとすると、AF1,AF2断層の活動時期は、A4層から得られた最も新しい14C年代値(約5千6百−5千4百年前)より後と推定される。

○トレンチB

トレンチBは、トレンチAの南方約130mの地点で、那須野ヶ原扇状地堆積物1(高位面)上の断層崖を横切って掘削された。宮下ほか(2001a)は、トレンチBの南・北両壁面において、断層崖の基部と、その約7m西側で逆断層を確認した(図3)。このうち、断層崖基部のBF1断層は、B8層からB2層最上部(14−15世紀)までを切る20°西傾斜の明瞭な断層面を持つ。BF1断層によるB7−B2層基底面の変位量の傾斜成分はいずれも0.7−1m程度であり、この間に変位量の累積は認められない。以上のことから、BF1断層は14世紀以後に1回の活動で形成されたと考えられる。

また、断層崖の基部から約7m西側に分布するBF2断層は雁行する低角逆断層群からなり、B7−B5層を逆転させている。このBF2断層は少なくともB5層中部までを切り、B4層に覆われる。宮下ほか(2002a)は、このB4層が下位のB8層をブロック状に取りこむこと、層厚が隆起側で厚く、低下側で徐々に薄くなり尖滅することに基づいて、B4層をBF2断層の活動直後に堆積した崩積性堆積物と推定した。そして、BF2断層の活動時期をB4層から得られた最も若い年代(約5千3百−4千9百年前)以後、B3層最下部の年代(約4千1百−3千9百年前)以前に絞り込むことができるとした。ただし、B4層が再堆積層である直接的な証拠は無いため、ここでは、BF2断層の活動は、B5層中部堆積時(約8千−7千9百年前)以後、B3層最下部堆積時(約4千1百−3千9百年前)以前であると判断する。

○トレンチC

トレンチCは、トレンチBの南方約330mの地点で、那須野ヶ原扇状地堆積物1(高位面)上の断層崖を横切って掘削された。トレンチ壁面には、2つの逆断層(CF1断層, CF2断層)が分布する(図4)。このうち、東側のCF1断層は、15°西傾斜の明瞭な面を持つ低角逆断層で、C7層からC3層中部までを切り、C2層に覆われる。ただし、宮下ほか(2002a)では、C3層の上位とC2層から得られた14C年代値が、一部層序と逆転してほぼ同じ年代を示すこと、及びC3層に挟在される榛名二ツ岳伊香保軽石(Hr−Fp:6世紀中葉、町田・新井,2003)起源の角閃石濃集層がC2層において成層構造をなしていることから、C2層中に含まれる腐植質の多くもC3層に由来する可能性があるとした。ここでは本検討結果に基づき、CF1断層の活動時期の上限をC2層から得られた年代値で拘束するのは適当でないと考え、その活動時期を、C3層中部堆積時(7−9世紀)以後と推定した。

一方、西側のCF2断層はC5層を切りC4層に覆われる。よって、CF2断層の活動時期はC5層上部堆積時(約5千1百−4千9百年前)以後、C4層堆積時(4−6世紀、C3下底部から14C年代試料を採取)以前と推定される。

A 関谷地点

宮下ほか(2002b)は、関谷断層の南部にあたる塩原町関谷の箒(ほうき)川左岸でトレンチ調査を実施した。本トレンチは、那須野原の西縁に断続的に認められる比高数10mの崖の最前面に位置する、比高1−2mの低崖部を横切るように掘削された。

トレンチ壁面ではF1−F3の3つの断層が確認された(図5)。このうち、F1断層は2層の最上部以下の地層を明瞭に変位させており、同層準から得られた14C年代値に基づくと、F1断層の活動時期は9−12世紀以後と考えられる。また、F2断層は7層以下の地層を変位させ、5層に覆われていることから、各々の地層から得られた14C年代値に基づくと、F2断層の活動時期は約6千年前以後、約2千8百年前以前となる。さらに、F3断層は、8層中部以下の地層を切り7層に覆われている。このことから、F3断層に切られる8層中部の最も若い年代と7層の最も古い年代を、断層活動の時期を拘束するデータとして採用し、約8千4百年前以後、約5千8百年前以前にF3断層の活動があったと推定する。

なお、宮下ほか(2002b)では、8層中の14C年代値の分布に基づき、同層の下部−中部間に傾斜不整合が存在する可能性を指摘した。この考えに基づくと、不整合面の形成(8千年前頃)以前に2つ前の活動が限定される可能性がある。ただし、ここで指摘された不整合面は直接トレンチ壁面では確認できないため、詳細は不明である。

b)先史時代・歴史時代の活動

宇佐美(2003)等に基づくと、少なくとも1683年より後には関谷断層付近で発生した大地震は知られていない。

関谷断層付近で記録されている歴史時代の地震としては、1659年(万治2年)の岩代・下野の地震、及び1683年(天和3年)の日光の地震がある(宇佐美,2003)。1659年の地震では、南山田鳩町で人家297(一説197)軒、土蔵30(一説39)棟が押し倒れ、死者8(一説14)名の被害が生じたとともに、関谷断層付近の塩原温泉では一村(約80余戸)がほとんど土砂に埋まり、死者11人がでたとの記録がある(宇佐美,2003)。また、1683年6月の地震では、日光で御宮・御堂・石垣等が崩れ、同10月の地震では、関谷断層の約18km西方の下野三依川五十里村(現在の塩谷郡藤原町−栗山村)のほか、会津・日光でも山崩れがあり、川をせき止めたとの記録がある(宇佐美,2003)。寒川・室井(1989)によれば、両地震の規模と被害分布から、条件をみたす唯一の震源断層として関谷断層が挙げられている。また、寒川・室井(1989)は、1683年の日光地震について、早川(1985)の指摘する河川段丘面の変位や、宿場の移転及び「地震割」・「ジシンワレ」という地名の存在から、同地震は関谷断層の活動によるものと推定した。

以上のように、関谷断層周辺では、1659年岩代・下野の地震と1683年日光地震の両地震がトレンチ調査から推定された本断層の最新活動時期に記録されている。しかし、これらの地震と本断層の活動を直接関連付ける地震断層や地殻変動の出現に関する記録、あるいは断層付近の被害分布に関する詳細な記録は無いため、詳細な関係は不明である。

以上の調査結果をまとめると、関谷断層の最新活動時期は14世紀以後、17世紀以前、1つ前の活動時期は約5千1百年前以後、約3千9百年前以前、及び2つ前の活動時期は、約8千4百年前以後、約5千8百年前以前と推定される(図6)。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注9)

関谷断層は長さが約38kmと推定されることから、松田(1975)の経験式(1)、(2)を用いると、本断層全体における1回の活動に伴う変位量は上下成分が3m程度(計算値3.0m)の可能性がある。用いた経験式は、次の式である。ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Mはその時のマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。

      LogL = 0.6M−2.9      (1)
      LogD = 0.6M−4.0      (2)

なお、宮下ほか(2001a,2002a)に基づくと、百村トレンチBにおいて、最新活動で活動したとされるBF1断層によるB7−B2層基底の傾斜方向の変位量は0.7−1.0m程度である。しかし、百村トレンチBは断層崖の基部で掘削されており、撓曲帯全体の変位量はこれより有意に大きいと考えられる。また、早川(1985)によると、塩原町関谷付近の箒川左岸に分布する和田山下位段丘面3が約3m上下に変位するとされている。そして、寒川・室井(1989)は、同段丘面3には、榛名二ツ岳伊香保軽石を上位に伴う黒土が分布しないこと(早川,1985)から、同段丘面は6世紀以後に形成され、その後に約3mの上下変位が生じたとしている。これらの資料に基づくと、これは最新活動時の変位を示すことになるが、同段丘面の形成年代や変位に関する確実な資料は無く、詳細は不明である。

以上の検討から、1回の活動に伴う関谷断層の上下変位量は3m程度であった可能性があるとした。

(4)活動間隔

関谷断層では、過去3回の活動時期が得られており、それらの年代値から本断層の平均活動間隔は約2千6百−4千1百年と推定される。

なお、本断層の平均変位速度は概ね1m/千年、1回の活動に伴う上下変位量は3m程度(計算値3.0m)と求められている。これらを用いると平均活動間隔は概ね3千年と計算でき、上述の結果と整合的である。

(5)活動区間

関谷断層では、構成する断層がほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づくと、全体が1つの区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

関谷断層周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、本断層周辺で顕著な歪みは見られない。最近5年間のGPS観測結果でも顕著な歪みは見られない。

(7)地震観測結果

最近6年間の地震観測結果によれば、関谷断層の地震発生層の深さの下限は約15kmである。また、本断層付近の発震機構は、東南東−西北西に圧力軸を持つ逆断層型が多い。

なお、本断層周辺地下では太平洋プレートが沈み込んでおり、その深さは約80kmに達している。断層周辺では、深さ約40kmからの物質上昇を想起させるような、低周波地震を伴う地震の連なりが3本観測されているが、いずれも活火山に近く、火山活動に伴う地震活動であると推定される。

2.3 関谷断層の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

関谷断層は、断層全体が1つの活動区間として同時に活動すると推定される。断層の長さが約38kmと推定されることから、前述の経験式(1)を用いて、発生する地震の規模はマグニチュード7.5程度と求められる。また、その際、断層近傍の地表面では東側が西側に対して相対的に3m程度高まる段差や撓みが生じる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

関谷断層全体が同時に活動する場合、過去の活動に基づく平均活動間隔が約2千6百−4千1百年で、最新活動時期が14世紀以後、17世紀世紀以前と求められていることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は0.07−0.3となる。地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内の地震発生確率はほぼ0%、今後300年以内の地震発生確率は、ほぼ0%−0.003%である。また、現在までの集積確率はほぼ0%となる。

3.今後に向けて

関谷断層の活動に伴う1回のずれの量と平均的なずれの速度については、精度の良い数値が得られていない。よって、これらの項目に関し、精度のよい資料を得ることが望ましい。

注9: 「変位」を、1頁の本文及び4、5頁の表1では、一般にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が、本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注10: 関谷上位段丘は、姶良Tn(AT)テフラの降下期(約2万8千年前:小池・町田編,2001等)に離水した関谷中位段丘よりもやや古い年代に形成されたと考えられる。ここでは、関谷上位段丘の形成年代を概ね4万年前程度と推定した。また、関谷下位段丘2は、関谷中位段丘よりも新しい年代に形成されたと考えられるが、詳細な年代は不明である。よって、ここでは関谷下位段丘2の年代を約2万8千年前以後とした。
注11: 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値については、百年単位で四捨五入して示した。また、10,000年BPよりも古い炭素同位体年代については、Kitagawa and van der Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正した値を用いた。

文 献

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表3 関谷断層の地震発生確率及び参考指標

項  目

数  値

備  考

地震後経過率

 今後30年以内の発生確率
 今後50年以内の発生確率
 今後100年以内の発生確率
 今後300年以内の発生確率

集積確率

0.070.3

ほぼ0
ほぼ0
ほぼ0
ほぼ0%−0.003

ほぼ0


発生確率及び集積確率は地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)参照。

  

 指標()経過年数
       
 指標()
 指標()
 指標()
 指標()

マイナス2千6百年−マイナス1千1百年
0.10.4
ほぼ0
ほぼ0
ほぼ0
0.00020.0004


地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会(1999)参照。

注12: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。
指標(1) 経過年数 :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。
この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。
関谷断層の場合、ポアソン過程を適用した場合の危険度は、2千6百分の1−4千1百分の1(0.0002−0.0004)であり、いつの時点でも一定である。
BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点でほぼ0であり、時間とともに増加する。BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達するには今後1千1百年から2千6百年を要する。
指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルによる危険率がポアソン過程とした場合のそれを超えるまでの時間をBとする。前者を後者で割った値(A/B)。
指標(2) :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の確率の値で割った値。。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。

付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

ランク

               分類条件の詳細

 

発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。

 

平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。

 

平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性がやや低い。

 

 

平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。