平成16年6月9日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


水縄断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について−地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、55断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、水縄断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


・平成18年1月11日 地震後経過率を訂正しました。(赤字)


平成16年6月9日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

水縄断層帯の評価

水縄(みのう)断層帯は、福岡県の南部に位置する活断層帯である。ここでは、平成7年度に福岡県によって行われた調査をはじめ、これまでに行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

水縄断層帯は、福岡県浮羽(うきは)郡浮羽町から同郡吉井町、田主丸(たぬしまる)町を経て久留米市に至る断層帯である。本断層帯の長さは約26kmで、ほぼ東西方向に延びる、南側が相対的に隆起する正断層である(図1、2及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

水縄断層帯の最新の活動は、679年(天武7年)の筑紫地震である可能性がある。また、約1万4千年前以後に1つ前の活動が、約2万8千年前以前に2つ前の活動があった可能性がある。これらの過去の活動時期から、本断層帯の平均的な活動間隔は1万4千年程度の可能性がある(表1)。

3.断層帯の将来の活動

水縄断層帯が1つの区間として活動する場合、マグニチュード7.2程度の地震が発生すると推定される。この場合、断層の南側が北側に対して相対的に2m程度高まる段差が生じる可能性がある(表1)。本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率を算出すると表2に示すとおりとなる(注1、2)。

4.今後に向けて

水縄断層帯については、活動時期や1回の変位量に関するより詳細な資料を得るなど、過去の活動をより一層明らかにしていく必要がある。


表1 水縄断層帯の特性



項 目

特  性

信頼度
注3

根 拠
(注4)

1.断層帯の位置・形態

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1) 断層帯を構成する断層

流川(ながれかわ)の断層、屋部(やべ)の断層、福益(ふくます)断層、益生田(ますおだ)断層、草野断層、宮園断層、追分(おいわけ)断層

 

文献4、6による。

 

(2) 断層帯の位置・形状

 

 

 

 

地表における断層帯の位置・形状

 

 断層の位置

 (東端)北緯33°19′東経130°50

 (西端)北緯33°18′東経130°33

 長さ     約26 km

 


 

 

 


文献4、6による。位置及び長さは図2から計測。

 

 

 

 

 

 

地下における断層面の位置・形状

 長さ及び上端の位置

     地表での長さ・位置と同じ

 上端の深さ  0 km

 一般走向   ほぼ東西




 傾斜     高角 北傾斜

       (地下約700 m以浅)




 幅      
15 km程度

 

 








 

上端の深さが0 kmであることから推定。

 

一般走向は、断層帯の両端を直線で結んだ方向(図2を参照)。

傾斜は、断層露頭、重力探査結果及び反射法弾性波探査結果(文献4)等から推定。

地震発生層の下限の深さが15 km程度であることから推定。

(2) 断層のずれの向きと種類

南側隆起の正断層

 

文献1、2、3、4、6による。

2.断層帯の過去の活動

 

 

 

 

(1) 平均的なずれの速度

0.2 m/千年程度

(上下成分)

文献4、8による。

(2) 過去の活動時期

活動1(最新活動時期)

   679年(天武7年)筑紫地震

(トレンチからは12世紀以前)

活動2(1つ前の活動)

  約1万4千年前以後

活動3(2つ前の活動)

  約2万8千年前以前

 



 




活動1は文献2、3、4、7、9による。活動2及び3は、文献2、3をもとに推定。説明文2.2参照。

(3) 1回のずれの量と平均活動間隔

1回のずれの量:2 m程度                (上下成分)

平均活動間隔 

  1万4千年程度

 


 


文献4による。

過去3回の活動から推定。説明文2.2参照。

(4) 過去の活動区間

断層帯全体で1区間

断層の地表形態から推定。

3.断層帯の将来の活動

 

(1) 将来の活動区間及び活動時の地震の規模

活動区間   断層帯全体で1区間

地震の規模  マグニチュード
7.2程度
ずれの量   2
m程度

       (上下成分)




断層の地表形態から推定。
断層の長さから推定

過去の活動から推定

 

 

表2 水縄断層帯の将来の地震発生確率等

項   目

将来の地震発生確率等
(注5)

信頼度
(注6)

備   考

地震後経過率(注7)

今後30年以内の地震発生確率
今後50年以内の地震発生確率
今後100年以内の地震発生確率
今後300年以内の地震発生確率

集積確率(注8)

0.09

ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%
ほぼ0%

ほぼ0%

 

 

 

発生確率及び集積確率は、文献5による。

 

 


注1: 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。
  98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満
  98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満
  98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上
(いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用)
この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。
 今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合:
 「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」
 今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合:
 「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」
注2: 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率と集積確率(うち、1995年兵庫県南部地震と1858年飛越地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)による暫定値)は以下のとおりである。

地震名

地震を引き起こした活断層

地震発生直前の30年確率(%)

地震発生直前の集積確率(%)

断層の平均活動間隔(千年)

1995年兵庫県南部地震
(M7.3

野島断層
(兵庫県)

0.4 %−8 %

%80%

1.8−約3.0

1858年飛越地震
(M7.07.1

跡津川断層
(岐阜県・富山県)

ほぼ0%10 %

ほぼ0%90%より大

1.9−約3.3

1847年善光寺地震
(M7.4

長野盆地西縁断層帯
(長野県)

ほぼ0%−20%

ほぼ0%90%より大

0.8−約2.5




「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が1万年の場合は30年確率の最大値は3%程度、2万年の場合は1%程度である。
注3: 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
    ◎:高い、○:中程度、△:低い
注4: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
  文献1:千田(1990)
  文献2:千田ほか(1994)
  文献3:千田ほか(1995)
  文献4:福岡県(1996)
  文献5:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)
  文献6:九州活構造研究会編(1989)
  文献7:松村(1990)
  文献8:村橋(1995)
  文献9:宇佐美(2003)
注5: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
注6: 地震後経過率、発生確率及び現在までの集積確率(以下、発生確率等)の信頼度は、評価に用いた信頼できるデータの充足性から、評価の確からしさを相対的にランク分けしたもので、aからdの4段階で表す。各ランクの一般的な意味は次のとおりである。
  a:(信頼度が)高い b:中程度 c:やや低い d:低い
発生確率等の評価の信頼度は、これらを求めるために使用した過去の活動に関するデータの信頼度に依存する。信頼度ランクの具体的な意味は以下のとおりである。分類の詳細については付表を参照のこと。なお、発生確率等の評価の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、発生確率等の値の確からしさを表すことに注意する必要がある。
発生確率等の評価の信頼度  
a:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が比較的高く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が高い。
b:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が中程度で、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が中程度。
c:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性がやや低い。
d:過去の地震に関する信頼できるデータの充足度が非常に低く、これを用いて求めた発生確率等の値の信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、最新活動時期のデータが得られていないため、現時点における確率値が推定できず、単に長期間の平均値を確率としている。
注7: 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価の数字で、0.1は1千3百年を1万4千年で割った値。
注8: 前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率。


(説明)

1.水縄断層帯に関するこれまでの主な調査研究

千田(1981)は、空中写真判読や地表踏査により、水縄(みのう)断層帯の断層線の位置・性状を把握し12の断層からなるとした。九州活構造研究会編(1989)は、水縄断層系の分布・変位状況を詳細に明らかにした。千田ほか(1994,1995)は、久留米市前田地区での遺跡トレンチ調査から本断層帯の活動履歴を考察した。また、村橋(1995)は本断層西端付近でボーリング資料の調査を行い、平均変位速度について考察した。さらに、福岡県(1996)は、物理探査やトレンチ調査などを行い、本断層帯の性状や活動履歴についての総合的な考察を行った。

また、松村(1990)は久留米市周辺の遺跡調査等から、縄文時代以後少なくとも3回の大地震を経験していると指摘しており、このうち最新の地震が679年(天武7年)の筑紫地震に相当し、これが本断層帯の活動によるものとした。宇佐美(2003)も、同地震の被害状況からこの地震が本断層帯の活動である可能性を指摘している。

なお、本断層帯付近の活断層の位置は、九州活構造研究会編(1989)、活断層研究会編(1991)及び中田・今泉編(2002)などに示されている。

2.水縄断層帯の評価結果

2.1 断層帯の位置及び形態

(1)断層帯を構成する断層

水縄断層帯は、福岡県南部に位置する流川(ながれかわ)の断層(注9)、屋部(やべ)の断層(注9)、福益(ふくます)断層、益生田(ますおだ)断層、草野断層、宮園断層、追分(おいわけ)断層からなる(図2)。これらの断層位置は、各資料でほぼ一致するが、福岡県(1996)は、断層帯東端に低位扇状地面を変形させる断層を認定している。なお、村橋(1995)は断層帯西端部をやや延長して、ここに千本木断層、朝妻断層、東合川(ひがしあいかわ)断層を記載している。

本評価での断層の位置及び名称は、九州活構造研究会編(1989)、福岡県(1996)によった。

(2)断層帯の位置・形状

水縄断層帯は、福岡県浮羽(うきは)郡浮羽町から同郡吉井町、田主丸(たぬしまる)町を経て久留米市に至るほぼ東西走向の断層帯である。本断層全体の長さ及び一般走向は、図2に示された水縄断層帯の両端を結ぶとそれぞれ約26km、ほぼ東西である。断層帯は、前述した断層が数km以下の短い崖線が耳納(水縄)山地の北縁に沿って、平行もしくは雁行して連続して分布する形態をなす。

断層面上端の深さは、断層変位が地表に達していることから0kmとした。
断層面の傾斜は、断層露頭に認められる断層の傾斜や福岡県(1996)が実施した反射法弾性波探査結果(図3)及び重力探査結果などから総合的に判断すると、地下約700m以浅では高角で北傾斜と推定される。

地震発生層の下限の深さが15km程度と推定されること(後述)、断層面の傾斜が地下深部でも同様であるとすれば、断層面の幅は15km程度となる。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注10)

本断層帯は、反射法弾性波探査結果、重力探査結果及び断層変位地形などから、南側が相対的に隆起する北傾斜の正断層と考えられる。なお、横ずれ成分については、九州活構造研究会編(1989)、活断層研究会編(1991)、福岡県(1996)は不明としているが、千田(1990)は西端部での正断層の左雁行配列から右横ずれ成分を含む可能性を指摘しており、中田・今泉編(2002)にも西端部付近に右横ずれ成分の記載がある。

2.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注10)

本断層帯の平均変位速度については、上下成分について、村橋(1995)及び福岡県(1996)などにより調査がなされている。なお、横ずれ成分に関する平均変位速度の報告はない。

a)宮園地区

福岡県(1996)は、久留米市宮園地区でのボーリング結果から姶良Tn火山灰(注11:約2万8千年前)層に約4.25mの上下変位が見られることから、平均上下変位速度を0.15m/千年としている。ただし、福岡県(1996)のボーリング地点の西側に存在する推定断層を考慮すると値はもう少し大きくなる可能性がある。

b)千本杉・朝妻地区

村橋(1995)は、久留米市での本断層帯西端部でのボーリング資料から、千本杉断層と朝妻断層の合算で阿蘇4火山灰層(注12:約8万5千−9万年前)に9.5−14.5m、扇状地面に2−7mの上下変位が認められるとした。このうち、扇状地面については形成年代の根拠にとぼしいため、阿蘇4火山灰層の上下変位量を用いると平均上下変位速度は0.11−0.17m/千年と求められる。

以上より、本断層帯の平均上下変位速度の値は、0.2m/千年程度である可能性がある。

(2)活動時期

○地形・地質的に認められた過去の活動

a)福益地点

福岡県(1996)は、浮羽郡吉井町福益地区でトレンチ調査を行い、2世紀から7世紀を示す5層に変化がないとしている。しかし、本トレンチにおいては、断層が見出されていないことから、断層がトレンチ外を通過している可能性があり、活動時期に言及することはできない。

b)宮園地点

福岡県(1996)は、久留米市宮園地区でトレンチ調査を行い、阿多鳥浜(あたとりはま)火山灰(注12)起源の可能性がある火山ガラスを含む6層が変位し、12世紀の土器片を含む1層に覆われるとしている。これより、12世紀以前に最新活動があった可能性がある。

c)前田地点

千田ほか(1994,1995)は、久留米市前田地区でトレンチ調査を行い、トレンチ2−E壁面(図4)で6世紀の土器が出土した2b層が割れ目に落ち込み、13−14世紀の遺物を含有する2a層に覆われることから、6世紀以後に最新活動があったとしている。しかしながら、2b層は割れ目に落ち込むように分布している(図4)ものの層中の構造や土器の出土位置が明示されておらず、またトレンチ3−W壁面(図5)で3A層を切る断層が2b層に覆われることから、断層の最終活動時期を2b層堆積完了後とは限定できず、2b層堆積中のある時期に最新活動があったとしか言えない。

また、千田ほか(1994,1995)は、トレンチ2及びトレンチ3において、約2万7千年前の14C年代値(注13)を示す6層を切る割れ目を4層が埋めていることから、約2万7千年前以後に1回前の活動があったとしている。さらに、千田ほか(1994,1995)は、トレンチ1及びトレンチ3において、8層(姶良Tn火山灰層)を切る割れ目が、7層に充填されるとし、8層堆積(約2万8千年前)後6層堆積(7層の年代値が得られていないため6層の年代から約2万7千年前)前に2つ前の活動があったとしている。しかしながら、6層中の亀裂は液状化の可能性が高く、その場合4層も含めて液状化していると考えられるため、これらの亀裂によって活動層準を特定することはできない。また、6層を切る断層については、その上位の3B層を切る亀裂に連続する可能性があり4層に覆われるとは言えない。さらに、トレンチ1−E壁面の8層を切る亀裂は7層上面も変形させており、トレンチ3−E壁面の亀裂は7層の液状化に伴う可能性があり、7層から4層に連続しているため、活動があったのは4層堆積後となる。加えて、8層から4層までは各トレンチ壁面でほぼ平行に変形しているため、この間に断層活動があったとは考えにくい。

一方、トレンチ2−W壁面で4層の撓曲変形を3A層が水平に覆っている。4層からは約1万4千年前を示す14C年代値が得られていることから、1つ前の活動の時期は約1万4千年前以後であった可能性がある。よって、約2万8千年前以後、約1万4千年前以前の間には、断層活動がなかった可能性がある。

さらに、トレンチ1−W壁面で断層変位を受けた9層を8層が斜めに削り込んで覆うことや、トレンチ3−W壁面で9層中の液状化の痕跡と考えられる亀裂を8層が覆うことから、9層堆積後8層堆積前に活動があった可能性がある(千田ほか;1994,1995)。この活動は、8層の年代から約2万8千年前以前であった可能性がある。

○先史時代・歴史時代の活動

松村(1990)は、久留米市内の遺跡調査から、679年(天武7年)の筑紫地震が本断層帯の活動による地震である可能性を言及した。さらに、宇佐美(2003)によると、筑紫地震(マグニチュード6.5−7.5)では『幅2丈(6m)、長さ3千余丈(10km)の地割れ』が生じ家屋の倒壊が多数あったとされており、筑紫地震が本断層帯の活動による地震であるとしている。

以上のことから、前田地点のトレンチ調査の結果からは、最新活動は2b層の堆積中としか判断できないが、この2b層からは6世紀の年代を示す土器が出土していることから、最新活動は6世紀に近接した時代にあったことが示唆される。よって、本断層帯の最新活動は、前田地点でのトレンチ調査結果及び歴史時代の被害地震記録を総合すると、679年(天武7年)の筑紫地震である可能性がある。また、約1万4千年前以後に1つ前の活動があった可能性があり、約2万8千年前以前に2つ前の活動があった可能性がある。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注10)

福岡県(1996)による宮園地点でのボーリング結果における姶良Tn火山灰層の上下変位量4.25mを前述の2回の活動による累積とみなすと、1回の上下変位量は約2.1mと求められる。

なお、本断層帯の長さが約26kmであることから経験式を用いると、1回の上下変位量は約2.1mと求められ、ボーリングから得られた変位量と矛盾しない。ここで用いた経験式は松田(1975)による次の式である。ここで、Lは断層の長さ(km)、Mはマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。

      Log L = 0.6M − 2.9    (1)
      Log D = 0.6M − 4.0    (2)

以上より、本断層帯の1回の上下変位量は2m程度である可能性がある。
なお、横ずれ成分についての1回の変位量に関する資料は得られていない。

(4)活動間隔

前述のように、本断層帯は約2万8千年前以後、最新の活動とされる679年の筑紫地震を含めて約1万4千年前以後に2回の活動があった可能性があり、約2万8千年前以後、約1万4千年前以前の間には活動がなかった可能性がある。また、平均上下変位速度(0.2m/千年程度)と1回の上下変位量(2m程度)から算出される活動間隔の値が1万年程度となることを考慮すると、1つ前と2つ前の活動間隔の差が極端に大きくなることは考えにくい。したがって、本断層帯の活動間隔は、1万4千年程度である可能性があるとして大きな矛盾は生じない。

(5)活動区間

本断層帯はほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば全体が1つの区間として活動すると推定される。

(6)測地観測結果

本断層帯周辺における1994年までの約100年間の測地観測結果では、ほぼ南北方向の伸びが見られる。また、1985年から約10年間の測地観測結果では、本断層帯の北側で伸びが南側で縮みが見られる。最近5年間のGPS観測結果では、顕著な歪みは見られない。

(7)地震観測結果

本断層帯周辺における地震活動は、全体的には低調であるが、断層帯の東方ではやや活発であり、周囲の地震活動から求められる地震発生層の下限の深さは15km程度である。

2.3 断層帯の将来の活動

(1)将来の活動区間及び地震の規模

本断層帯が1つの区間として活動する場合、断層の長さ(約26km)から経験式を用いると(前述)、マグニチュード7.2程度の地震が発生すると推定される。この場合、断層の南側が北側に対して相対的に2m程度高まる段差が生じる可能性がある(表1)。

(2)地震発生の可能性

本断層帯では、平均活動間隔が1万4千年程度と求められ、最新活動が679年(天武7年)の筑紫地震であった可能性があることから、平均活動間隔に対する現在における地震後経過率は、0.1となり、また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率及び現在までの集積確率は、いずれもほぼ0%となる。表3にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。


3.今後に向けて

本断層帯の活動については、活動時期や1回の変位量に関するより詳細な資料を得るなど、過去の活動をより一層明らかにしていく必要がある。

注9: 流川の断層及び屋部の断層については、いずれも九州活構造研究会編(1989)では単に流川及び矢部としか記載がないことから、本評価に際しては便宜上これらの断層を「流川の断層」及び「屋部の断層」と名称の後ろに「の断層」をつけて表記した。
注10: 「変位」を、1頁の本文、4−5頁の表1では、一般にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が、本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。
注11: 姶良Tn(AT)火山灰の降下年代値については、日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会編(1996)、小池・町田編(2001)等から、25,000年BPとし、暦年補正して約2万8千年前とした。
注12: 阿蘇4火山灰(Aso−4)、阿多鳥浜火山灰(Ata−Th)の降下年代値については、町田・新井編(2003)に従い、それぞれ約8万5千−9万年、約24万年前とした。
注13: 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示した。また、10,000年BPより古い炭素同位体年代については、Kitagawa and van der Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正し、四捨五入して1千年単位で示した。

文 献

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千田 昇(1990):九州における活断層ストリップマップの試作−小倉東断層,水縄断層系の例−.活断層研究,8,105−113.

千田 昇・松村一良・寒川 旭・松田時彦(1994):水縄断層系の最近の活動について−久留米市山川町前田遺跡でのトレンチ調査−.第四紀研究,33,261−267.

千田 昇・松田時彦・松村一良・三浦 真・村橋輝樹・石井邦宙(1995):1993年水縄断層系追分断層(久留米市山川町前田地区)トレンチ調査.活断層研究,13,88−95.

福岡県(1996):『西山断層系,水縄断層系及び警固断層系に関する調査委託報告書 第V編水縄断層系についての調査結果』.118p.

福岡県(総務部消防防災課)(1997):水縄断層系(帯)に関する調査.平成7年度・平成8年度地震調査研究交付金成果報告会予稿集,科学技術庁,144−147.

花村 修・松岡 稔・小泉友美(1996):水縄(耳納)断層系.九州地方活断層研究,1,27−50.

池田安隆(1979):大分県中部火山地域の活断層系.地理学評論,52,10−29.

活断層研究会編(1980):『日本の活断層−分布図と資料』.東京大学出版会,363p.

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町田 洋・新井房夫編(2003):新編「火山灰アトラス −日本列島とその周辺−」.東京大学出版会,336p.

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表3 水縄断層帯の将来の地震発生確率及び参考指標

項  目

数  値

備  考

地震後経過率

 今後30年以内の発生確率
 今後50年以内の発生確率
 今後100年以内の発生確率
 今後300年以内の発生確率

集積確率

0.09 

ほぼ0
ほぼ0
ほぼ0
ほぼ0

ほぼ0

 

発生確率及び集積確率は地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)参照。

 

  

 指標()経過年数
        
 指標()
 指標()
 指標()
 指標()

マイナス9千8百年
0.1
ほぼ0
ほぼ0
ほぼ0
0.00007

地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会1999)参照。


注14: 評価時点はすべて2004年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。なお、計算に用いた平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。
指標(1) 経過年数 :当該活断層での大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は、最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(BPT分布モデルを適用した場合の考え方)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合の考え方)。
この指標は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。値がマイナスである場合は、BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達していないことを示す。
水縄断層の場合、ポアソン過程を適用した場合の危険率は、1万4千分の1(0.00007)であり、いつの時点でも一定である。
BPT分布モデルを適用した場合の危険率は評価時点でほぼ0であり、時間とともに増加する。BPT分布モデルを適用した場合の危険率がポアソン過程を適用した場合の危険率に達するには今後9千8百年を要する。
指標(1) :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルによる危険率がポアソン過程とした場合のそれを超えるまでの時間をBとする。前者を後者で割った値(A/B)。
指標(2) :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。
指標(3) :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。
指標(4) :評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の確率の値で割った値。
指標(5) :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。

付表

地震発生確率等の評価の信頼度に関する各ランクの分類条件の詳細は以下のとおりである。

ランク

               分類条件の詳細

発生確率を求める際に用いる平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも比較的高く(◎または○)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が高い。

平均活動間隔及び最新活動時期のうち、いずれか一方の信頼度が低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性が中程度。 

平均活動間隔及び最新活動時期の信頼度がいずれも低く(△)、これらにより求められた発生確率等の値は信頼性がやや低い。


 

平均活動間隔及び最新活動時期のいずれか一方または両方の信頼度が非常に低く(▲)、発生確率等の値は信頼性が低い。このため、今後の新しい知見により値が大きく変わる可能性が高い。または、データの不足により最新活動時期が十分特定できていないために、現在の確率値を求めることができず、単に長期間の平均値を確率としている。