平成16年12月8日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会


西山断層帯の長期評価について


地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。

地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに陸域の活断層として、69断層帯の長期評価を行い公表した。

今回、引き続き、西山断層帯について現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、とりまとめた。

評価に用いられたデータは量及び質において一様でなく、そのためにそれぞれの評価の結果についても精粗がある。このため、評価結果の各項目について信頼度を付与している。


平成16年12月8日
地震調査研究推進本部
地震調査委員会

西山断層帯の評価

西山断層帯は、福岡県中部、北九州市と福岡市の中間に位置する活断層帯である。ここでは、平成7年度に福岡県によって行われた調査をはじめ、これまで行われた調査研究成果に基づいて、この断層帯の諸特性を次のように評価した。

1.断層帯の位置及び形態

西山断層帯は、福岡県宗像(むなかた)郡津屋崎(つやざき)町から嘉穂(かほ)郡穂波町に至る断層帯である。全体として長さは約31kmで、北西−南東方向に延びる左横ずれ主体の断層である(図1、2及び表1)。

2.断層帯の過去の活動

西山断層帯の平均的なずれの速度は不明である。
西山断層帯の最新活動時期は、約1万2千年前以後、概ね2千年前以前であったと推定される(表1)。一方、平均活動間隔は不明である。

3.断層帯の将来の活動

西山断層帯では、断層帯全体が1つの区間として活動し、マグニチュード7.3程度の地震が発生すると推定される(表1)。この場合、約2−3mの左横ずれを生じる可能性がある。本断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は不明である。

4.今後に向けて

西山断層帯では、平均活動間隔が得られておらず、また、過去の活動履歴に関しても十分絞り込まれていない。このため、平均的なずれの速度、最新活動時期及び平均活動間隔などに関してさらなる調査が必要である。

表1 西山断層帯の特性

項  目 特  性   信頼度  
(注1)
根  拠
(注2)
1.断層帯の位置・形態
  (1) 西山断層帯を構
   成する断層
東−大井の断層、桂区−奴山 (ぬやま) の断層、
須多田 (すただ) −冠の断層、畑断層、
脇田断層、西山断層、椿断層、六地蔵断層、
明星寺断層
  文献4による。
  (2) 断層帯の位置・
   形状
地表における断層帯の位置・形状
  断層帯の位置
   (北西端) 北緯 33°50′東経 130°29′
   (南東端) 北緯 33°36′東経 130°40′
  長さ 約 31 km





文献3,4による。数値は図
2から計測。形状は図2を
参照。
     地下における断層帯の位置・形状
  長さ及び上端の位置 地表での長さ・位
                置と同じ
  上端の深さ     0 km
  一般走向      N 30°W


  傾斜        ほぼ垂直
            (地表付近)
  幅         約 15 km











上端の深さが0kmであ
ることから推定。

一般走向は、断層帯の北
端と南端を直線で結んだ
方向 (図2参照)。
傾斜は、断層露頭及び地
形・地質の特徴から推定。
幅は、断層面の傾斜と
地震発生層の下限の深
さから推定。
  (3) 断層のずれの向
   きと種類
左横ずれ主体の断層
文献 1,4 などに示された
地形・地質の特徴による。
2.断層帯の過去の活動
  (1) 平均的なずれの
   速度
不明 説明文 2.2(1)参照。
  (2) 過去の活動時期 活動 1 (最新時期)
約1万2千年前以後、概ね2千年前以前

文献 1,2 による。
  (3) 1回のずれの量
   と平均活動間隔
1回のずれの量 約 2−3 m
           (左横ずれ成分)
平均活動間隔  不明
断層の長さから推定。
  (4) 過去の活動区間 断層帯全体で 1 区間 断層の地表形態から推定。
3.断層帯の将来の活動
  (1) 将来の活動区間
   及び活動時の地
   震の規模
活動区間    断層帯全体で 1 区間
地震の規模   マグニチュード 7.3 程度
ずれの量    約 2−3 m (左横ずれ成分)


断層の地表形態から推定。
断層の長さから推定。
断層の長さから推定。


注1: 信頼度は、特性欄に記載されたデ−タの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。
    ◎:高い、○:中程度、△:低い
注2: 文献については、本文末尾に示す以下の文献。
  文献1:福岡県(1996)
  文献2:磯ほか(2000)
  文献3:活断層研究会編(1991)
  文献4:九州活構造研究会編(1989)

(説明)

1.西山(にしやま)断層帯に関するこれまでの主な調査研究

西山断層帯は、活断層研究会編(1991)及び九州活構造研究会編(1989)では活動度B級(注3)と記載されている活断層である。

西山断層帯についての研究としては、断層帯周辺での断層露頭3カ所の報告(木原ほか、1981)のほか、九州活構造研究会編(1989)、活断層研究会編(1991)がある。峯元・下山(1997)は、地形地質調査を行っている。福岡県(1996)は、反射法弾性波探査、トレンチ調査、ボーリング調査など詳細な調査を実施している。磯ほか(2000)は、奴山地点でトレンチ調査を行っている。

2.西山断層帯の形状等の評価結果

2.1 西山断層帯の位置及び形態

(1) 西山断層帯を構成する断層

西山断層帯は、宗像郡津屋崎町から、同郡福間町、鞍手郡若宮町を経て飯塚市西部に至る北西−南東走向(活断層研究会編,1991)の断層帯である。

本断層帯は、おおむね北西から、東−大井の断層(注4)、桂区−奴山(ぬやま)の断層、須多田−冠の断層、西山断層、畑断層、脇田断層、六地蔵断層、明星寺断層、脇断層から構成され(図1、図2)、松田(1990)の起震断層の定義に基づけば、単一の断層帯とみなすことができる。

岩淵(1996)は、西山断層帯の延長に当たる大島沖の音波探査記録から断層の存在を指摘しているが、これは海岸から5km以上離れており、松田(1990)の定義によれば、地上の断層トレースと同一の起震断層を構成しないと考えられるので、ここでは評価対象には加えないこととする。

本断層帯を構成する各断層の位置・形態は、活断層研究会編(1991)、九州活構造研究会編(1989)などに示されている。本断層帯の位置は、これらの資料でほぼ一致しているが、構成断層の名称は、九州活構造研究会編(1989)と活断層研究会編(1991)で多少の違いがある。

本断層帯を構成する各断層の位置及び名称は、九州活構造研究会編(1989)に従った。

(2)断層面の位置・形状

本断層帯全体の長さ及び一般走向は、断層帯の北西端と南東端を直線で結んで約31km、N30°Wとなる。

地下の断層面の位置及び形状は、地表における断層帯の位置及び形状と地下の地質構造等から推定した。

断層面上端の深さは、断層変位が地表に達していることから0kmとした。

断層面の傾斜については、次の2.1(3)で示すように横ずれ断層であること及び断層露頭やトレンチ壁面に現れた断層の形状から、地表付近ではほぼ垂直であると推定される。

また、断層面の幅については、地震発生層の下限の深さが約15kmであること及び断層面の傾斜がほぼ垂直であると推定されることから、約15kmであると推定される。

(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注5)

活断層研究会編(1991)及び九州活構造研究会編(1989)は、断層に沿って谷が150−700m系統的に屈曲していると指摘している。これより、西山断層帯は左横ずれ断層であると推定される。なお、活断層研究会編(1991)は、上下方向のずれの向きは一定しないとしている。

2.2 断層帯の過去の活動

(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注5)

本断層帯は、左横ずれが主体の断層帯であるが、その平均的なずれの速度については信頼できる値が求められていない。

また、上下成分については、以下のような資料が得られている。[1]福岡県(1996)は、本木地区で行ったボーリング調査の結果から、中期段丘堆積物(約9万年前)の下限に1−2mの上下変位があると指摘した。ただし、宮腰ほか(1999)は、この面の形成年代を姶良Tn火山灰(AT,約2万8千年前,注6)降灰直前としており、その場合は平均的なずれの速度は明記されていないものの上記の3倍程度の値と計算される。[2]九州活構造研究会編(1989)は、断層帯中央部の脇田断層において、中位段丘面(5−10万年前)上に比高7−15mの南西側隆起の低断層崖が存在すると指摘している。[3]磯ほか(2000)は、明星寺付近の高位段丘相当層の最下部に38.3mの上下変位が見られると指摘した。この高位段丘相当層に含まれる火山灰は阿多鳥浜(あたとりはま)火山灰(Ata−Th、約24万年前、注7)とされている。しかし、以上の値にはかなりの幅があり、また、活断層研究会編(1991)は上下方向のずれの向きは一定しないとしていることを考慮して、ここでは採用しないこととする。

以上のように、本断層帯は活断層研究会編(1991)及び九州活構造研究会編(1989)では活動度B級(注3)と記載されているものの、その根拠については十分な信頼性が得られないため、本断層帯における平均的なずれの速度は不明とする。

(2)活動時期

a)地形・地質的に認められた過去の活動

宗像市あんずの里地点

福岡県(1996)は、宗像市あんずの里地点でトレンチ調査を行い、14C年代値(注8)で約1万2千年前の地層を切る断層が人工盛土に覆われていると指摘した。この結果より、この地点における最新活動は、約1万2千年前以後であったと推定される。

宗像市奴山(ぬやま)地点

磯ほか(2000)は、宗像市奴山地点でトレンチ調査を行い、約1万3千年前の地層を切る断層が5世紀の土器片を含む層に覆われると指摘した。これより、この地点における最新活動は、約1万3千年前以後、5世紀以前であったと推定される。

飯塚市明星寺地点

福岡県(1996)は、飯塚市明星寺地点でトレンチ調査を行い、断層が阿多鳥浜火山灰の可能性のある火山ガラスを含む地層(6層)を切り、より上位の層(5層)に覆われると指摘した。また、磯ほか(2000)は、この5層から弥生時代中期初頭の土器等が出土したことから、5層の年代をおおよそ2千1百年前程度と指摘している(図3)。これより、この地点における最新活動時期は、概ね2千年前以前であったと推定される。

なお、宮腰ほか(1999)は、トレンチ調査の結果から、約2千−7千3百年前に最新活動、約9千6百−1万4千年前に1つ前の活動、約1万−2万8千年前に2つ前の活動、約2万8千−3万5千年前に3つ前の活動の、計4回の活動時期が判読されたとしているが、根拠となる図等が示されておらず、信頼度を評価することができないため、ここでは参考扱いとして紹介するにとどめる。

b)先史時代・歴史時代の活動

本断層帯付近で発生した被害地震は特に知られていない(宇佐美,2003)。

以上の結果を総合すると、この断層帯の最新活動時期は約1万2千年前以後、概ね2千年前以前と推定される。

(3)1回の変位量(ずれの量)(注5)

本断層帯では、1回の活動に伴う変位量に関する直接的な資料は得られていない。

一方、経験式(1)、(2)によれば、本断層帯の1回の変位量は、断層帯の長さ(約31km)から2.5mと計算できる。

以上のことから、本断層帯の1回の変位量は、約2−3mであった可能性がある。

用いた経験式は、松田(1975)による次の式である。ここで、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Mはその時のマグニチュード、Dは1回の活動に伴う変位量(m)である。

      LogL = 0.6M−2.9      (1)
      LogD = 0.6M−4.0      (2)

(4)活動間隔

本断層帯の活動間隔に関する直接的な資料は得られていない。

(5)活動区間

本断層帯では、断層がほぼ連続的に分布することから、松田(1990)の基準に基づけば全体が1つの区間として活動したと推定される。

(6)測地観測結果

本断層帯周辺における1994年までの約100年間及び1985年から1994年までの10年間の測地観測結果では、本断層帯周辺で顕著な歪みは見られない。最近5年間のGPS観測結果でも顕著な歪みは見られない。

(7)地震観測結果

本断層帯付近の地震活動は低調である。地震発生層の下限の深さは約15kmである。

2.3断層帯の将来の活動

(1)活動区間と活動時の地震の規模

本断層帯は、断層帯全体が1つの活動区間として活動すると推定される。

本断層帯が活動した場合、経験式 (1)、(2) からマグニチュード7.3程度の地震が発生すると推定され、その際には約2−3mの左横ずれを生ずる可能性がある。

(2)地震発生の可能性

本断層帯における将来の地震発生の可能性については、関係する資料が整っていないため、検討できない。

3.今後に向けて

西山断層帯では、平均活動間隔が得られておらず、また、過去の活動履歴に関しても十分絞り込まれていない。このため、平均変位速度、最新活動時期及び平均活動間隔などに関してさらなる調査が必要である。

注3: 西山断層帯では、平均的なずれの速度を具体的に示すことはできないが、活断層の活動の活発さの程度、すなわち活動度(松田,1975)は推定されているので、それを示した。
・活動度がAの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が1m以上、10m未満であるものをいう。
・活動度がBの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.1m以上、1m未満であるものをいう。
・活動度がCの活断層は、1千年あたりの平均的なずれの量が0.01m以上、0.1m未満であるものをいう。
注4: 「東−大井の断層」「桂区−奴山の断層」及び「須多田−冠の断層」については、活断層研究会編(1991)では単に「東−大井」「桂区−奴山」及び「須多田−冠」としか記載がないことから、本評価に際しては便宜上この断層を「東−大井の断層」「桂区−奴山の断層」及び「須多田−冠の断層」と、名称の後ろに「の断層」を付加して表記した。
注5: 「変位」を、1ページの本文及び4ページの表1では、一般的にわかりやすいように、「ずれ」という言葉で表現している。ここでは、専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と、切断を伴わない「撓みの成分」よりなる。
注6: 姶良−Tn火山灰の降下年代値は、日本第四紀学会第四紀露頭集編集委員会編(1996)、小池・町田編(2001)等から25,000年BPとし、暦年補正して約2万8千年前とした。
注7: 阿多鳥浜(Ata−Th)火山灰の降下年代値に関しては、町田・新井(2003)に従った。
注8: 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正し、原則として1σの範囲の数値で示した。このうち2,000年前よりも新しい年代値は世紀単位で示し、2,000年前よりも古い年代値については、百年単位で四捨五入して示した。また、10,000年BPよりも古い炭素同位体年代については、Kitagawa and van der Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正し、四捨五入して1千年単位で示した。

文 献

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