平成14年10月9日
|
三浦半島断層群の長期評価について
地震調査研究推進本部は、「地震調査研究の推進について −地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策−」(平成11年4月23日)を決定し、この中において、「全国を概観した地震動予測地図」の作成を当面推進すべき地震調査研究の主要な課題とし、また「陸域の浅い地震、あるいは、海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価を行う」とした。
地震調査委員会では、この決定を踏まえつつ、これまでに、陸域の活断層として、23地域25断層帯の長期評価を行い、公表した。
今回、引き続き、陸域の活断層である三浦半島断層群について、現在までの研究成果及び関連資料を用いて評価し、別添のとおりとりまとめた。
なお、今回の評価は、現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったものではあるが、データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから、評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり、防災対策の検討など評価結果の利用にあたってはこの点に十分留意する必要がある。
三浦半島断層群の評価
|
平成14年10月9日 |
三浦半島断層群は、三浦半島の中・南部及びその周辺海域に発達する活断層群である。ここでは、平成7、11−12年度に神奈川県によって行われた調査をはじめ、これまでこの断層群に関して行われた調査研究成果に基づいて、この断層群の諸特性を次のように評価した。
1 断層群の位置及び形態
三浦半島断層群は、三浦半島の中・南部及び浦賀水道に分布しており、神奈川県三浦郡葉山町から横須賀市を経て浦賀水道に至る三浦半島断層群主部と、三浦市に位置する三浦半島断層群南部からなる(図1、2、表1、3)。
三浦半島断層群主部は、ほぼ西北西−東南東方向に並走する北側の衣笠・北武(きぬがさ・きたたけ)断層帯と南側の武山(たけやま)断層帯に細分される。衣笠・北武断層帯の確認されている長さは約14kmであるが、さらに両側の海域に延びている可能性があり、他のデータをもとに計算により求めると約22km以上の可能性もある。武山断層帯の確認されている長さは約11kmであるが、さらに両側の海域に延びている可能性がある。三浦半島断層群南部の確認されている長さは約6kmであるが、さらに両側の海域に延びている可能性がある。
断層群主部及び南部は、いずれも右横ずれが卓越する断層帯から構成される。
2 断層群の過去の活動
(1)三浦半島断層群主部
三浦半島断層群主部は、過去の活動時期の違いから、北側の衣笠・北武断層帯と南側の武山断層帯の二つに分けられる。
衣笠・北武断層帯の最新活動時期は、6−7世紀であったと考えられ、信頼度は低いがその平均的な活動間隔は概ね1千9百年−4千9百年程度であった可能性がある。
武山断層帯の最新活動時期は、概ね2千3百年前以後、1千9百年前以前であったと考えられ、その平均的な活動間隔は1千6百年−1千9百年程度であったと推定される。
なお、1923年大正関東地震の際に、武山断層帯の陸域部の東端付近で、地震断層が出現したことが知られているが、地震断層が現れた範囲は1km程度とごく短い区間であることから、これは関東地震に付随した活動であり、武山断層帯固有の活動ではないと推定される。
(2)三浦半島断層群南部
三浦半島断層群南部の最新活動時期は約2万6千年前以後、約2万2千年前以前であったと推定されるが、その平均的な活動間隔は不明である。
3 断層群の将来の活動
(1)三浦半島断層群主部
断層群主部は、最新活動時と同様に衣笠・北武断層帯と武山断層帯がそれぞれ別々に活動すると推定されるが、全体が一つの区間として同時に活動する可能性もある。
衣笠・北武断層帯と武山断層帯が別々に活動する場合、衣笠・北武断層帯では、少なくともマグニチュードが6.7程度の地震が発生すると推定され、その時のずれの量は1m程度となる可能性があるが、他のデータをもとに計算により求めると、マグニチュード7.0程度もしくはそれ以上、ずれの量が2m程度もしくはそれ以上となる可能性もある(表1)。
武山断層帯では、マグニチュード6.6程度もしくはそれ以上の地震が発生すると推定され、その時のずれの量は1m程度もしくはそれ以上となる可能性がある(表1)。
なお、ここで示した両断層帯で発生する地震の規模及びずれの量の数値は、分布が確認されている範囲の断層長や平均的なずれの速度及び平均活動間隔との関係などをもとに推定したものである。断層がさらに両側の海域に延びている可能性を考慮して、地震規模及びずれの量がさらに大きくなる可能性を示した。
衣笠・北武断層帯と、武山断層帯の最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率は表2に示すとおりである。
また、断層群主部全体が同時に活動する場合は、衣笠・北武断層帯が単独で活動する場合と同程度もしくはそれ以上の規模の地震が発生すると推定され、全体のずれの量も衣笠・北武断層帯が単独で活動する場合と同程度もしくはそれ以上となる可能性がある。この場合の長期確率はそれぞれが単独で活動する場合の長期確率を超えることはないと考えられる。
本評価で得られた地震発生の長期確率にはそれぞれ幅があるが、衣笠・北武断層帯、武山断層帯ともに、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる。(注1、2)。
(2)三浦半島断層群南部
断層群南部は、全体が一つの区間として活動すると推定され、その際にはマグニチュード6.1程度もしくはそれ以上の地震が発生すると推定され、その時のずれの量は0.5m程度もしくはそれ以上となる可能性がある。
なお、断層群主部と同様に、ここで示した南部で発生する地震の規模及びずれの量の数値は、分布が確認されている範囲の断層長をもとに推定したものである。断層が両側の海域にさらに延びている可能性があることを考慮して、地震規模及びずれの量がさらに大きくなる可能性を示した。
断層群南部は、平均活動間隔が不明であるため、最新活動後の経過率及び将来このような地震が発生する長期確率を求めることはできない。
4 今後に向けて
三浦半島断層群を構成する断層は、三浦半島を横断して、相模湾及び浦賀水道の海域に達している可能性があるが、海域における断層の分布は、一部を除いて確認されておらず、将来の地震規模等について十分な評価ができない。したがって、相模湾及び浦賀水道における断層の分布を明らかにすることが重要である。
また、断層群主部、南部とも、その活動度をより詳細に把握するため、平均的なずれの速度を精度よく求める必要がある。特に南部は、平均活動間隔が得られておらず、将来の地震発生可能性の評価ができない。このため過去の活動履歴に関する十分な資料を得る必要がある。
表1 三浦半島断層群主部の特性
| 項 目 | 特 性 | 信頼度 (注3) |
根 拠 (注4) |
|
| 1.断層帯の位置・形態 | ||||
| (1)
三浦半島 断層群主部を 構成する断層 |
衣笠・北武(きぬがさ・きたたけ)断層帯: 衣笠断層帯、北武断層帯 武山(たけやま)断層帯: 武山断層帯(金田湾断層を含む) |
文献5による。 | ||
| (2)
断層帯の位置・ 形状等 |
地表における断層帯の位置・形状 断層群の位置(確認されている範囲の両端位置) 衣笠・北武断層帯 (東端)北緯35°12′東経139°43′ (西端)北緯35゜16′東経139°35′ 武山断層帯 (東端)北緯35°10′東経139°42′ (西端)北緯35゜14′東経139゜36′ 長さ 衣笠・北武断層帯 約14kmもしくはそれ以上 他のデータをもとに計算により求めると約 22kmもしくはそれ以上の可能性もある。 武山断層帯 約11kmもしくはそれ以上 地下における断層面の位置・形状 長さ及び上端の位置 衣笠・北武断層帯、武山断層帯ともに地表ま たは海底での長さ・位置と同じ 上端の深さ 衣笠・北武断層帯、武山断層帯ともに0km 一般走向(確認されている範囲の一般走向) 衣笠・北武断層帯 N60°W 武山断層帯 N50°W 傾斜 衣笠・北武断層帯、武山断層帯ともに、 地表付近では高角度 幅 不明 |
△ △ ○ △ ○ ○ ◎ △ △ ○ |
断層帯の位置は、文献1、 8に基づき、分布が確認さ れている両端の緯度・経度。 衣笠・北武断層帯の長さの うち約14kmは確認されて いる範囲の両端を直線で結 んだ長さ。約22kmは平均 的なずれの速度の最小値と 平均活動間隔の最小値か ら求められた1回のずれの量 をもとに推定。 武山断層帯の長さは確認さ れている範囲の両端を直線 で結んだ長さ。 上端の深さが0kmであるこ とから推定。 一般走向は確認されている 範囲の断層帯の西端と東 端を直線で結んだ方向(図 2参照)。 地表付近の傾斜は、文献 3、4に示された断層露頭や トレンチでの観察結果から 推定。 |
|
| (3)
断層のずれの向 きと種類 |
右横ずれ断層。上下成分を伴うが、 北側隆起と南側隆起の箇所とが混在。 |
◎ |
文献3、4、5、6、8に示 された変位地形・断層露 頭などによる。 |
|
| 2.断層帯の過去の活動 | ||||
| (1)
平均的なずれの 速度 |
衣笠・北武断層帯 0.9−2.3m/千年(右横ずれ成分) 武山断層帯 0.5−2.8m/千年(右横ずれ成分) |
△ △ |
最小値は文献6などに示され た数値から推定。最大値は 1回の活動に伴うずれの量の 想定し得る最大値と平均活 動間隔の最小値から推定 (注5)。 1回の活動に伴うずれの量と 平均活動間隔から推定 (注6)。 |
|
| (2) 過去の活動時期 |
衣笠・北武断層帯 活動1(最新活動) 6−7世紀 活動2(一つ前の活動) 約7千2百年前以後、約3千4百年前以前 このほか、約1万6千年前以後、約1万1千年 前以前にも活動 武山断層帯 活動1(最新活動) 約2千3百年前以後、約1千9百年前以前 活動2(一つ前の活動) 約3千百年前以後、約2千3百年前以前 活動3(二つ前の活動) 約5千6百年前以後、約5千4百年前以前 1923年の大正関東地震の際に、三浦半島東 岸の武山断層帯付近で、長さ1km程度にわた って地震断層が出現したが、地震断層の現れた 範囲は武山断層帯のごく一部の範囲に限られて いるため、武山断層帯固有の活動ではないと推 定される。 |
◎ ○ ◎ ◎ ○ ○ |
活動時期は文献3、4など に示された資料から推定。 文献7の記述などから推定。 |
|
| (3)
1回のずれの量 と平均活動間隔 |
衣笠断層・北武断層帯 1回のずれの量(右横ずれ成分) 1m程度もしくはそれ以上 他のデータをもとに計算により求めると 2m程度もしくはそれ以上の可能性もある。 平均活動間隔 1千9百年−4千9百年程度 武山断層帯 1回のずれの量(右横ずれ成分) 1m程度もしくはそれ以上 平均活動間隔 1千6百年−1千9百年程度 |
△ △ △ △ ○ |
衣笠・北武断層帯の1回の |
|
| (4) 過去の活動区間 |
活動区間: 最新活動時は、衣笠・北武断層帯と 武山断層帯でそれぞれ1区間。 それ以前の活動時には全体が1区間 として活動した可能性もある。 |
◎ △ |
文献3、4に示された資料か ら推定。 断層の位置関係、形状などか ら推定。 |
|
| 3.断層帯の将来の活動 | ||||
| (1)
将来の活動区間 及び活動時の地 震の規模 |
活動区間: 衣笠・北武断層帯と、武山断層帯が それぞれ1区間として活動。 全体が1区間として活動する可能性 もある。 地震の規模とずれの量 衣笠・北武断層帯 地震規模:マグニチュード6.7程度もしく はそれ以上。 他のデータをもとに計算により 求めるとマグニチュード7.0程 度もしくはそれ以上の可能性も ある。 ずれの量(右横ずれ成分) :1m程度もしくはそれ以上 他のデータをもとに計算により 求めると2m程度もしくはそれ 以上の可能性もある。 武山断層帯 地震規模:マグニチュード6.6程度も しくはそれ以上 ずれの量(右横ずれ成分) :1m程度もしくはそれ以上 |
○ ○ △ △ △ ○ △ |
最新活動から推定。 断層の位置関係、形状など から推定。 衣笠・北武断層帯の地震規 模及びずれの量のうち、マグニ チュード6.7、ずれの量1mは 確認されている断層の長さか ら推定。マグニチュード7.0、 ずれの量2mは他の数値と整 合をはかるため平均的なずれ の速度の最小値と平均活動 間隔の最小値から推定。 武山断層帯の地震規模及びず れの量は分布が確認されてい る範囲の断層の長さから推定。 |
|
表2 三浦半島断層群主部の将来の地震発生確率等
| 項 目 | 将来の地震発生確率等 (注8) |
備 考 |
衣笠・北武断層帯 地震後経過率(注9) 今後 30年以内の発生確率 今後 50年以内の発生確率 今後100年以内の発生確率 今後300年以内の発生確率 集積確率(注10) 武山断層帯 地震後経過率(注9) 今後 30年以内の発生確率 今後 50年以内の発生確率 今後100年以内の発生確率 今後300年以内の発生確率 集積確率(注10) |
0.3 − 0.8 ほぼ0% − 3% ほぼ0% − 5% ほぼ0% − 10% ほぼ0% − 30% ほぼ0% − 20% 1.0 − 1.4 6% − 11% 9% − 20% 20% − 30% 50% − 70% 50% − 90%より大 |
発生確率及び集積確率 は文献2による。 |
表3 三浦半島断層群南部の特性
| 項 目 | 特 性 | 信頼度 (注3) |
根 拠 (注4) |
|
| 1.断層帯の位置・形態 | ||||
| (1)
断層群 南部を構成 する断層 |
南下浦(みなみしたうら)断層、 引橋(ひきはし)断層 |
文献5による。 | ||
| (2)
断層群の位置・ 形状等 |
地表における断層帯の位置・形状 断層群の位置(確認されている範囲の両端位置) (東端)北緯35°9′東経139°41′ (西端)北緯35゜11′東経139゜37′ 長さ 約6kmもしくはそれ以上 地下における断層面の位置・形状 長さ及び上端の位置 地表での長さ・ 位置と同じ 上端の深さ 0km 一般走向(確認されている範囲の一般走向) N60°W 傾斜 地表付近では高角度 幅 不明 |
△ △ ○ ◎ △ ○ |
文献8による。 位置及び長さは、断層 の存在が確認されてい る両端の位置から計測。 両側がさらに延びる可 能性もある。形状は図 2を参照。 上端の深さが0kmであ ることから推定。 一般走向は分布が確認 されている範囲の断層帯 の西端と東端を直線で 結んだ方向(図2参照)。 地表付近の傾斜は、 文献3、4に示された断 層露頭やトレンチでの 観察結果によるから推定。 |
|
| (3)
断層のずれの向 きと種類 |
右横ずれ断層。南側隆起の上下成分を伴う。 |
◎ |
文献3、4、5、6、8 に示された変位地形・ 断層露頭などによる。 |
|
| 2.断層帯の過去の活動 | ||||
| (1)
平均的なずれの 速度 |
平均的なずれの速度 右横ずれ成分 不明(注11) 上下成分 0.2m/千年程度 |
○ |
文献6などに示された 数値から推定。 |
|
| (2) 過去の活動時期 |
活動1(最新活動) 約2万6千年前以後、約2万2千年前以前 (注11) |
○ |
活動時期は文献3、4 などに示された資料から 推定。 |
|
| (3)
1回のずれの量 と平均活動間隔 |
1回のずれの量 0.5m程度もしくはそれ以上 (注11) 平均活動間隔 不明(注11) |
△ |
1回のずれの量は分布 が確認されている範囲 の断層の長さから推定 したものでより大きな 量である可能性もある。 |
|
| (4) 過去の活動区間 | 活動区間: 全体で1区間 | ○ |
断層の位置関係・ 形状などから推定。 |
|
| 3.断層帯の将来の活動 | ||||
| (1)
将来の活動区間 及び活動時の地 震の規模 |
活動区間: 全体が1区間として活動 地震の規模とずれの量 地震規模:マグニチュード6.1程度も しくはそれ以上 ずれの量(右横ずれ成分) :0.5m程度もしくはそれ以上 |
○ ○ △ |
断層の位置関係・形状な どから推定。 地震規模及びずれの量は 分布が確認されている範 囲の断層の長さから推定 したもので、より大きな量 である可能性もある。 |
|
| 注1: | 我が国の陸域及び沿岸域の主要な98の活断層帯のうち、2001年4月時点で調査結果が公表されているものについて、その資料を用いて今後30年間に地震が発生する確率を試算すると概ね以下のようになると推定される。 98断層帯のうち約半数の断層帯:30年確率の最大値が0.1%未満 98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が0.1%以上−3%未満 98断層帯のうち約1/4の断層帯:30年確率の最大値が3%以上 (いずれも2001年4月時点での推定。確率の試算値に幅がある場合はその最大値を採用。) この統計資料を踏まえ、地震調査委員会の活断層評価では、次のような相対的な評価を盛り込むこととしている。 今後30年間の地震発生確率(最大値)が3%以上の場合: 「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる」 今後30年間の地震発生確率(最大値)が0.1%以上−3%未満の場合: 「本断層帯は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる」 |
| 注2: | 1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震及び1847年善光寺地震の地震発生直前における30年確率及び集積確率(このうち、1995年兵庫県南部地震、1858年飛越地震については「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2001)による暫定値)は以下のとおりである。 |
| 地震名 | 活動した活断層 | 地震発生直前の 30年確率 (%) |
地震発生直前の 集積確率 (%) |
断層の平均活動 間隔 (千年) |
| 1995年兵庫県南部地震 (M7.3) |
野島断層 (兵庫県) |
0.4%−8% | 2%−80% | 約1.8−約3.0 |
| 1858年飛越地震 (M7.0−7.1) |
跡津川断層 (岐阜県・富山県) |
ほぼ0%−10% | ほぼ0%− 90%より大 |
約1.9−約3.3 |
| 1847年善光寺地震 (M7.4) |
長野盆地西縁断層帯 (長野県) |
ほぼ0%−20% | ほぼ0%− 90%より大 |
約0.8−約2.5 |
| 「長期的な地震発生確率の評価手法について」に示されているように、地震発生確率は前回の地震後、十分長い時間が経過しても100%とはならない。その最大値は平均活動間隔に依存し、平均活動間隔が長いほど最大値は小さくなる。平均活動間隔が2千年の場合は30年確率の最大値は10%程度、5千年の場合は5%程度である。 | |
| 注3: | 信頼度は、特性欄に記載されたデータの相対的な信頼性を表すもので、記号の意味は次のとおり。 ◎:高い、○:中程度、△:低い |
| 注4: | 文献については、本文末尾に示す以下の文献。 文献1:今泉ほか(1987) 文献2:地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001) 文献3:神奈川県(1996) 文献4:神奈川県(2001) 文献5:活断層研究会(1991) 文献6:太田ほか(1982) 文献7:山崎(1925) 文献8:渡辺ほか(1996) |
| 注5: | 断層帯が海域に延びると仮定した場合、海底地形等から、想定し得る断層の最大長さは約55kmとなる(ただしこれは実際に活断層が確認されている長さではない)。衣笠・北武断層帯の平均的なずれの速度の最大値は、この長さから推定される1回の活動に伴うずれの量の想定し得る最大値と平均活動間隔の最小値から推定。説明文参照。 |
| 注6: | 確認されている断層の長さは11kmであるが、断層帯が海域にさらに延びると仮定した場合に海底地形等から想定し得る断層の最大長さは約55kmとなる(ただしこれは実際に活断層が確認されている長さではない)。武山断層帯の平均的なずれの速度の最小値は、断層の長さを11kmと最小に見積もった場合に推定される1回のずれの量の最小値と平均活動間隔の最大値から推定。また、平均的なずれの速度の最大値は、断層の長さを55kmと最大に見積もった場合の1回のずれの量の想定し得る最大値と平均活動間隔の最小値から推定。説明文参照。 |
| 注7: | 断層帯が海域に延びると仮定した場合に想定し得る断層の最大長さは55kmとなる(ただしこれは実際に活断層が確認されている長さではない)。平均活動間隔の最大値は、断層の長さを55kmと最大に見積もった場合に推定される1回のずれの量の想定し得る最大値と平均的なずれの速度の最小値から推定。 |
| 注8: | 評価時点はすべて2002年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を示す。なお、計算に当たって用いた衣笠・北武断層帯の平均活動間隔の信頼度は低い(△)ことに留意されたい。 |
| 注9: | 最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間を、平均活動間隔で割った値。最新の地震発生時期から評価時点までの経過時間が、平均活動間隔に達すると1.0となる。今回の評価の数字で、断層群主部の武山断層の場合、1.0は1900年を1900年で割った値であり、1.4は2300年を1600年で割った値。 |
| 注10: | 前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率。 |
| 注11: | 断層群南部については、地形の変位から平均的なずれの速度がいくつか求められている(太田ほか,1982など;説明文参照)。しかし、これらの平均的なずれの速度の値と断層の長さから経験式を用いて得られた1回のずれの量から平均活動間隔を求めると数百年程度となり、トレンチから得られた最新活動時期以後、2万年以上経過しているというデータとは大きく矛盾することになる。仮に断層が海域に延びていれば、1回のずれの量は経験式に基づいてより大きな値として求められ、計算上平均活動間隔も多少長くなるが、矛盾が解消するほどにはならないと考えられる。このように、平均的なずれの速度と最新活動時期の数値は相矛盾するため、ここでは断層群南部の平均的なずれの速度及び平均活動間隔は不明とした。 |
(説明)
1.三浦半島断層群に関するこれまでの主な調査研究
三浦半島断層群に関するこれまでの主な調査研究として、以下のものがある。
山崎(1925)は、1923年の大正関東地震に伴う下浦地震断層の記載を行うとともに、三浦半島が断層で区切られた地塊群からなっているとした。また、Yamasaki(1926)は連続する凹地に沿う北向きの断層崖を推定して、武山断層の存在を指摘した。
杉村(1964)は、山崎(1925)が菊名断層とした断層を南下浦断層と呼び、これが右横ずれ断層である可能性を指摘するとともに、武山断層についても第四紀後期に少なくとも1kmの右横ずれをしている可能性を指摘した。Kaneko(1969)は、三浦半島には武山、北武、衣笠、南下浦、引橋の5つの主要な活断層が分布しており、これらが一様に右横ずれを示しているとした。伊藤ほか(1970)、垣見ほか(1971)は、露頭調査の結果から、南下浦断層では第四紀後期において断層のずれの量が累積していることを指摘し、太田ほか(1982)、松島(1976,1980,1984)、Williams(1983)、Kumaki(1985)は断層による地形の変位量を計測し、平均変位速度を求めた。
過去の活動履歴について、太田ほか(1991)は、北武断層におけるボーリング調査から、約8千年前以降4回の活動を推定し、活動間隔について言及した。また、池田ほか(1993)、神奈川県(1995,1996,2000,2001)、佐藤ほか(1997)、横須賀市(1998,1999)、杉村ほか(1999)によりトレンチ調査が実施され、本断層群の過去の活動について多くの地点で明らかにされてきた。
本断層群を構成する陸域の断層の位置は、太田ほか(1982)、太田・山下(1992)の活断層詳細図、活断層研究会(1980,1991)、渡辺ほか(1996)による1:25,000都市圏活断層図などにまとめられている。浦賀水道側の海域においては、今泉ほか(1987)が音波探査を実施し、沖積層と推定される地層を明瞭に切る断層を認め、これを金田湾断層と命名した。その後、岩淵ほか(1996)も同海域で音波探査を実施し、同断層が陸域の武山断層及び南下浦断層に連続する可能性を指摘した。また、渡辺(1993)及び鈴木ほか(1995)に音波探査結果等に基づく海底地質構造図が示されている。
2.三浦半島断層群の評価結果
三浦半島断層群は、三浦半島の中南部をほぼ西北西−東南東方向に横断し、東側は浦賀水道に達しており、また、西側も相模湾に延びている可能性がある。本断層群は、ほぼ並走する複数の断層からなっている。
本断層群は、松田(1990)の基準にしたがうと、北側の衣笠(きぬがさ)断層帯、北武(きたたけ)断層帯及び武山(たけやま)断層帯からなる断層群と、南側の南下浦(みなみしたうら)断層及び引橋(ひきはし)断層からなる断層群との二つの起震断層に分けられる。以下、ここでは前者を三浦半島断層群主部、後者を三浦半島断層群南部として、それぞれについて評価することとする。
2.1 三浦半島断層群主部
2.1−1 断層群主部の位置・形態
(1)断層群主部を構成する断層
断層群主部は、神奈川県三浦郡葉山町、横須賀市を経て浦賀水道に延びており、ほぼ西北西−東南東方向に並走する衣笠断層帯、北武断層帯及び武山断層帯から構成される。それぞれの断層帯は複数の並走する断層の集合からなっている(図1、2)。また、これらの断層帯は西側の相模湾に延びている可能性もある。
最も北側に分布する衣笠断層帯は、三浦半島西岸から東南東へ延び、三浦半島東部で南側の北武断層に収斂する。衣笠断層帯の南側にはこれとほぼ平行して北武断層帯が分布する。北武断層帯は三浦半島を横断し、三浦半島の東西両岸に達している。衣笠断層帯、北武断層帯はいずれも、相模湾に延びている可能性もあり、東側では一つに収斂した両断層帯が浦賀水道に延びている可能性もある。
北武断層帯の南側に位置する武山断層帯は、三浦半島西岸から東岸に至り、さらに浦賀水道の金田湾に延びている。武山断層帯の浦賀水道側の断層は金田湾断層とも呼ばれている。また、西側は相模湾に延びている可能性もある。なお、武山断層帯の陸域の東端付近には1923年関東地震の際に出現した下浦地震断層が分布する。
断層群主部を構成する断層の位置は活断層研究会(1991)、太田・山下(1992)、渡辺ほか(1996)などに示されている。また、浦賀水道の断層は今泉ほか(1987)などに示されており、相模湾、浦賀水道の地形や地質構造を示すものとして、渡辺(1993)、鈴木ほか(1995)などがある。ここでは、断層群主部を構成する断層の位置は渡辺ほか(1996)及び今泉ほか(1987)に、また名称は活断層研究会(1991)によった。
(2)断層面の位置・形状
断層群主部の地下の断層面の位置及び形状は、地表及び海底付近における断層帯の位置及び形状から推定した。
断層群主部はほぼ西北西−東南東方向に並走する三つの断層帯より構成される。後述のように、衣笠断層帯と北武断層帯は最新活動時に同時に活動したと推定されるため、両断層帯合わせて衣笠・北武断層帯と一括し、分布が確認されている範囲の両端をそれぞれ直線で結んで計測すると、その長さは14km、一般走向はN60°Wとなる。
最も南側に位置する武山断層帯は、分布が確認されている範囲の両端をそれぞれ直線で結んで計測すると、長さが11km、一般走向はN50°Wとなる。
ただし、ここに示したそれぞれの長さや一般走向は、断層の分布が確認されている範囲で計測したものであることに注意する必要がある。
海域では十分な調査が行われておらず、各断層帯がどこまで延びているか確認できる資料は得られていない。しかし、渡辺(1993)によると、相模湾側では衣笠断層帯及び武山断層帯の延長上に断層が北側に凸に弧を描くように断続的に延びており、ほぼ相模トラフまでそれぞれ約35km及び約30kmにわたって追跡可能である。ただし、これらの断層が活断層であるかどうかは不明である。また、浦賀水道側では、浦賀水道の東側にまで達しているとするデータは得られておらず、最大でも海域部の延長は衣笠・北武断層帯で6km以内、武山断層帯で約10kmとなる。以上、三浦半島陸域部の長さとあわせると、断層群主部の長さは、北武断層帯、武山断層帯ともに最大でも約55kmを超えることはないことになる。
断層面上端の深さは、断層による変位が地表及び海底に達していることから0kmとした。断層面の傾斜については、断層露頭やトレンチにおける観察結果によれば、各断層帯とも地表付近では高角度と推定される。
(3)断層の変位の向き(ずれの向き)(注12)
断層群主部を構成する断層帯は、断層を横切る谷の右屈曲が顕著であることなどから、いずれも右横ずれが卓越する断層帯と考えられる。また、上下方向の変位を伴っているが、変位の方向は場所により異なっており、一定していない。
2.1−2 断層群主部の過去の活動
(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)(注12)
<衣笠・北武断層帯>
太田ほか(1982)は、衣笠断層帯や北武断層帯を横切る谷の屈曲量などを求め、これらが衣笠断層帯では約10万年前以降に、また、北武断層帯では8−10万年前以降に形成されたものとして、それぞれの平均右横ずれ変位速度を0.4−3m/千年、0.5−4m/千年と求めた。しかしながら、変位基準とした地形面の年代値の根拠は明確ではない。また、一部の地形面を小原台面とし、その年代値を8万年前としているが、町田・新井(1992)によれば小原台の年代は約10万年前となる。このほか、北武断層帯の平均右横ずれ変位速度については、Williams(1983)により3m/千年以上、太田ほか(1991)により5m/千年、神奈川県(1996)により0.4m/千年以上などと求められているが、いずれも基準とした年代が数千年前と新しいため、その信頼度はやや低い。
以上のように、衣笠・北武断層帯で得られている平均右横ずれ変位速度は、基準とした地形面の年代値の推定根拠が明確でなかったり、数千年前と比較的新しい年代値であるなどそれぞれ問題があり、また、数値のばらつきも大きい。このため、個々の数値の信頼度は高いとはいえないが、ここでは、過去数万年間以上にわたる谷などの屈曲量から太田ほか(1982)が求めた数値から、衣笠・北武断層帯の平均右横ずれ変位速度は、概ね両断層帯を足し合わせた0.9−7m/千年の範囲にあると推定する。しかしながら、ここで推定した平均右横ずれ変位速度は幅が非常に大きく、1回の変位量と平均活動間隔を考慮するとデータに矛盾が生じることになる(後述)。このため、他のデータを考慮した際の推定幅の絞込みについて2.1−2(4)で再度検討する。
なお、上下成分については、松島(1980)、太田ほか(1982)、熊木(1982)、Williams(1983)、Kumaki(1985)などにより求められているが、衣笠・北武断層帯では北側隆起の箇所と南側隆起の箇所が混在し、隆起の方向が一様ではない。
<武山断層帯>
武山断層帯について、太田ほか(1982)は、断層を横切る谷の屈曲などが6万年前ないし8万年前以降に形成されたとし、その屈曲量から、平均右横ずれ変位速度を西部では1.7−4m/千年とし、また、東部では0.5−3.5m/千年とした。太田ほか(1982)は、変位基準とした地形面の一部を小原台面及び三崎面としており、その年代値をそれぞれ8万年前、6万年前として求めているが、町田・新井(1992)に基づくと、これらの年代値はそれぞれ約10万年前、8万年前となる。また、太田・山下(1992)は、太田ほか(1982)が求めた谷の屈曲量などを再計測し、三崎面を刻む谷の屈曲量を20−100mとしている。三崎面の年代値を8万年前として、その平均横ずれ変位速度を求めると、0.25−1.25m/千年となる。横須賀市(1998)は、武山断層の平均右横ずれ変位速度を、小原台面を刻む谷の屈曲量から1.0−1.2m/千年と求め、また、三崎面を刻む谷の屈曲量から0.2−1.3m/千年と求めている。
以上のように、武山断層帯で得られている平均右横ずれ変位速度は、衣笠・北武断層帯と同様の問題があり、また、それぞれの数値のばらつきも大きい。このため、個々の数値の信頼度は高いとはいえないが、武山断層帯の平均右横ずれ変位速度は概ね0.2−4m/千年の範囲にあると推定される。しかしながら、衣笠・北武断層帯と同様に、ここで推定した平均右横ずれ変位速度も幅が非常に大きく、1回の変位量と平均活動間隔を考慮するとデータに矛盾が生じることになる(後述)。このため、他のデータを考慮した際の推定幅の絞り込みについて2.1−2(4)で再度検討する。
なお、上下成分については、松島(1976,1980,1984)、太田ほか(1982)、Kumaki(1985)などにより求められているが、衣笠・北武断層帯と同様に武山断層帯では北側隆起の箇所と南側隆起の箇所が混在し、その方向は一様ではない。
(2)活動時期
a)地形・地質的に認められた過去の活動
本断層群主部ではトレンチ調査など、過去の活動に関する調査が比較的数多く実施されている。以下、主なものについて記述する。
<衣笠断層帯>
@岩戸トレンチ
横須賀市(1999)が同市岩戸の谷底低地で実施した2つのトレンチ調査(岩戸1、2)のうち、岩戸トレンチ2(図3)では、断層がD層を切り、その上位の地すべり堆積物に覆われていることから、最新活動はD層堆積後、地すべり発生前にあったと考えられる。地すべりの発生時期は地すべり面がトレンチ中央以南で消滅することから、地すべり面を覆うB層の堆積中または堆積直後であると考えられる。B層の上位のA2層から得られた年代値と、D層の下位のE1層から得られた年代値により、最新活動時期は約3千年前以後、約1千2百年前以前(8世紀以前)であったと考えられる。また、同トレンチにおいて、断層FW1及びFE1がF層を強く変形させており、F層をF′層及びその上位の地層が傾斜不整合に覆うことから、F層堆積後、F′層堆積前にも活動があったと推定され、その時期は約1万6千年前以後、約1万年前以前と考えられる。ただし、この活動と最新活動との間は地層が大きく欠如することから、この間に別の活動がなかったかどうかは不明である。
<北武断層帯>
Aようろしトレンチ
横須賀市ようろしの谷底低地において、杉村ほか(1999)が行ったトレンチ調査(図4)によれば、断層が、6世紀の年代値が得られているR3b層を切り、7世紀の年代値を示すR3a層に覆われている。したがって、本地点では6−7世紀に最新活動があったと考えられる。
また、西壁面においてR3i層が断層FR6によって大きく変形しており、その変形が上位のR3h層によって覆われている。R3h層からは年代値が得られていないが、東壁面において上位のR3g層及びR3i層から得られた年代値から、一つ前の活動が約7千2百年前以後、約3千3百年前以前にあったと考えられる。
B四ッ田トレンチ
横須賀市四ッ田の谷底低地で杉村ほか(1999)が行ったトレンチ調査(図5)によれば、小断層FY1はY3b層を切っているが、少なくとも上位のY3a−2層には達していない。Y3b−1層からは約2千4百年前を示す年代値が得られており、一方、Y3a−2層からは年代値が得られていないが、その上位の地層から約1千4百年前を示す年代値が得られていることから、本地点においては約2千4百年前以後、約1千4百年前以前に最新活動があったと推定される。また、Y4層は上位のY3b層とともに、最新活動に伴う変位を受けているが、その変形の程度はY3b層と同程度で最新活動以外にも断層活動を被っているようには見えない。Y4層からは約3千4百年前の年代値が得られているため、少なくとも約3千4百年前以後、約2千4百年前以前の間は活動がなかったと推定される。
<武山断層帯>
C津久井トレンチ
横須賀市津久井の谷底低地で横須賀市(1998)が行ったトレンチ調査(図6)によると、断層が約2千3百年前の年代値を示すB3層以下の地層を撓曲させている。約1千9百年前(1世紀)の年代値が得られている上位のB1層はB3層にアバットしており、さらに上位のA層に覆われている。したがって、本地点では、約2千3百年前以後、約1千9百年前以前に最新活動があったと推定される。また、D2層からその上位の約3千百年前の年代値を示すB6層までの地層が一様に強く撓曲変形しており、その上位のB3層に不整合で覆われていることから、B6層堆積後、B3層堆積前、すなわち約3千百年前以後、約2千3百年前以前にも活動があったと推定される。なお、B3層及びB5層をプリズム層としてその直前に断層活動があった可能性も指摘されている(横須賀市,1998)が、これらは確実に断層活動を示すものかどうかは不明である。さらに、古い活動として、約5千6百年前−約5千4百年前の年代値を示すE1層以下の地層が撓曲変形しており、これをD2層が傾斜不整合で覆っていることから、この間に断層活動があったと考えられる。D2層からは年代値が得られていないが、その上位のD1層からもE1層とほぼ同じ年代値が得られていることから、その活動時期は約5千6百年前以後、約5千4百年前以前と考えられる。
断層群主部で行われた過去の活動履歴に関する主な調査の結果は以上のとおりであるが、このほか、衣笠断層帯の横須賀市平作(横須賀市,1999)、北武断層帯の横須賀市松越川(神奈川県,1995)、横須賀市芦名(神奈川県,1996)、横須賀市コウロ(杉村ほか,1999)、横須賀市野比(佐藤ほか,1997)、また、武山断層帯の横須賀市須軽谷(横須賀市,1998)の各地点でもトレンチ調査やボーリング調査が行われている。なお、横須賀市長沢の谷底低地で池田ほか(1993)はトレンチ調査を行い、断層は認められなかったものの、トレンチに見出されたチャンネル状の構造が断層変位によって形成された可能性を示唆した。しかし、これが断層活動によるものであるという根拠は見出せず、この層準に断層活動があったとはいえない。
各トレンチの調査結果を整理すると図8のようにまとめられる。衣笠断層帯と北武断層帯の最新活動時期は6−7世紀でほぼ一致しており、これらは同時に活動したとみることができるが、武山断層帯の最新活動時期は約2千3百年前以後、1千9百年前以前で、衣笠・北武断層帯とは別に活動したと考えられる。
最新活動において同時に活動したと推定される衣笠断層帯と北武断層帯がそれ以前の活動においても同時に活動したとすると、衣笠・北武断層帯の最新活動時期は6−7世紀で、一つ前の活動は、ようろしトレンチの活動2と四ツ田地点で活動がなかったと推定される時期を考慮して、約7千2百年前以後、約3千4百年前以前と推定される。また、衣笠断層の岩戸トレンチ2で認められた活動により、約1万6千年前以後、約1万1千年前以前にも活動があったと考えられるが、この活動が二つ前の活動であるかどうかは不明である。
一方、武山断層帯では、津久井トレンチで得られた調査結果に基づくと、最新活動時期は、約2千3百年前以後、約1千9百年前以前と考えられ、一つ前の活動時期は約3千百年前以後、約2千3百年前以前、また、二つ前の活動時期は、約5千6百年前以後、約5千4百年前以前と推定される。トレンチ調査から得られたこれらの活動時期は、熊木(1982)及びKumaki(1985)が、津久井付近の段丘面の変位から推定した武山断層の活動時期と整合的である。
このように、衣笠・北武断層帯と武山断層帯の最新活動の時期は別々であったと考えられ、武山断層帯の一つ前の活動も単独で発生したものと考えられるが、それ以外の活動については、別々であったか、同時であったかは不明である。
b)先史時代・歴史時代の活動
1923年の関東地震の際に、三浦半島の東海岸に近い武山断層帯付近で、地震断層(下浦地震断層)が出現したことが知られている。山崎(1925)によると、この地震断層は三浦半島の東岸付近から西ないし西北西に長さが1km程度にわたって追跡され、南西側に0.3−1.5m程度の陥没を生じた。その後、Kaneko(1969)など、いくつかこの地震断層について記述がある。これらによれば、地震断層が出現した範囲は武山断層帯のごく一部にとどまっている。したがって、この地震断層は関東地震に付随したもので、武山断層帯固有の活動ではないと推定される。
(3)1回の変位量(ずれの量)(注12)
<衣笠・北武断層帯>
断層群主部の衣笠・北武断層帯では、過去の活動に伴う1回の変位量を直接示すデータは得られていない。しかし、確認されている断層帯の長さが14kmであることから、以下の松田(1975)の経験式(1)、(2)に基づくと、1回の活動に伴う変位量は1.1mと求められる。ただし、この変位量は分布が確認されている長さから求めたもので、断層は海域にさらに長く延びている可能性もあることから、求められた変位量は最小値と考えられ、もっと大きな値であった可能性もある。
したがって、確認されている断層の長さによれば、衣笠・北武断層帯における1回の活動に伴う変位量は1m程度もしくはそれ以上であった可能性がある。しかし、この数値は他のデータと論理的に矛盾を生じているため、2.1−2(4)で再度検討する。
なお、上述のように、衣笠・北武断層帯の長さは最大でも約55kmを超えないと考えられることから、断層長を仮に55kmとして、経験式(1)、(2)を用いて変位量を求めると、1回の活動に伴う変位量は4.4mと求められる。したがって、衣笠・北武断層帯の1回の活動に伴う変位量は、最大の想定でも概ね4.4m程度となる。
用いた経験式は、松田(1975)に基づく次の式である。ただし、Lは1回の地震で活動する断層の長さ(km)、Dは断層の変位量(m)、Mは地震のマグニチュードである。
Log L = 0.6 M − 2.9 (1)
Log D = 0.6 M − 4.0 (2)
<武山断層帯>
武山断層帯において確認されている長さは11kmであることから、経験式(1)、(2)に基づくと1回の活動に伴う変位量は0.9mと求められる。ただし、この変位量は分布が確認されている長さから求めたもので、断層は海域にさらに長く延びている可能性もあることから、求められた変位量は最小値と考えられ、もっと大きな値であった可能性もある。したがって、武山断層帯の1回の活動に伴う変位量は概ね1m程度もしくはそれ以上であった可能性がある。
一方、上述のように、武山断層帯の長さは最大でも約55kmを超えないと考えられることから、断層長を55kmとして経験式(1)、(2)を用いると、1回の活動に伴う変位量は4.4mと求められる。したがって、武山断層帯の1回の活動に伴う変位量は最大の想定でも概ね4.4m程度となる。
なお、武山断層の津久井トレンチのE3層頂面の上下変位量は2.5−3.0mもしくはこれよりも多少大きいと推定され(横須賀市,1998)、これが3回の活動を受けていると考えられることから、1回の活動に伴う上下変位量は0.8−1.0mもしくはこれよりも多少大きな量であった可能性がある。また、津久井トレンチのC1層基底の上下変位量は1.3−1.4mで、これが2回の活動を受けていると考えられることから、1回の活動に伴う上下変位量は0.7m程度であった可能性がある。本断層帯は横ずれ変位を主体とする断層帯であるが、これらの上下変位量は確認されている断層の長さから経験式を使って求めた変位量と大きく矛盾するものではない。さらに、トレンチの南北両側壁面では、断層を挟んで見かけ2mの水平ずれを示す位置に小規模な水路跡が確認されており、その見かけオフセット量約2m(横須賀市,1998)が2回の活動によるものであるとすると、1回の活動に伴う横ずれ変位量は約1mである可能性がある。ただし、水路跡の方向が確認されていないことから、ここでは参考値とする。
(4)活動間隔及び平均変位速度、1回の変位量等の再検討
<衣笠・北武断層帯>
衣笠・北武断層帯は最新活動時期が6−7世紀で、一つ前の活動が約7千2百年前以後、約3千4百年前以前と推定される。また、岩戸トレンチでは最新活動のほかに約1万6千年前以後、約1万1千年前以前の活動が認められているが、これ以降に活動が何回あったのか不明である。そこで、最新と一つ前の活動の2回の活動時期から活動間隔を求めると、1900−5900年となる。一方、平均右横ずれ変位速度の最小値は0.9m/千年と求められており、1回の変位量は最大の想定でも概ね4.4mを超えることはないと判断されることから、これらを用いて平均活動間隔の最大値を求めると約4900年となり、それ以上の平均活動間隔を想定するとデータに矛盾が生じることになる。
以上のことから、衣笠・北武断層帯の平均活動間隔は1千9百年−4千9百年程度であった可能性がある。
また、1回の変位量は最大でも4.4mを超えないことと、平均活動間隔が1千9百年以上と求められていることから、平均右横ずれ変位速度は最大でも2.3m/千年となり、これ以上の場合はデータに矛盾が生じることとなる。さらに、平均右横ずれ変位速度の最小値が0.9m/千年で、平均活動間隔の最小値が1千9百年であることから、1回の変位量の最小値は概ね1.7mに絞り込まれる。また、1回の活動に伴う変位量を1.7mとすれば、経験式(1)、(2)より、断層の長さは約22kmとなる。
したがって、独立に求められたそれぞれの数値と矛盾が生じないようにすると、衣笠・北武断層帯の平均右横ずれ変位速度は0.9−2.3m/千年となる。また、1回の変位量は概ね2m程度もしくはそれ以上、断層の長さは22kmもしくはそれ以上となる。
<武山断層帯>
武山断層については、最新活動時期が約2千3百年前以後、約1千9百年前以前で、二つ前の活動時期が約5千6百年前以後、約5千4百年前以前であることから、最近の3回の活動からは平均活動間隔が1600−1900年と求められる。
したがって、武山断層帯の平均活動間隔は、約1千6百年−1千9百年程度であったと推定される。
一方、1回の変位量は少なくとも0.9mで、最大でも4.4mを超えないと判断されることを考慮すると、上で求めた平均活動間隔から、武山断層帯の平均右横ずれ変位速度は0.5−2.8m/千年の範囲にあることになり、この範囲以外の平均変位速度を仮定するとデータに矛盾が生じることになる。したがって、データの矛盾を解消するためには、武山断層帯の平均右横ずれ変位速度は概ね0.5−2.8m/千年に限定されることになる。
(5)活動区間
断層群主部は、最新の活動においては、衣笠・北武断層帯と武山断層帯がそれぞれ一つの活動区間として活動したと考えられる。しかし、両者は互いに近接していることから、より古い活動においては断層群主部全体が一つの区間として活動した可能性もある。
(6)測地観測結果
三浦半島断層群の周辺における1985年から1994年間の三辺測量及び最近4年間のGPS観測結果では、南−北方向の縮みがみられる。水準測量による結果では、1960年代からほぼ一定の速度で三浦半島が沈降しており、半島の先端側にいくほど沈降のスピードが速い。
(7)地震観測結果
本断層群付近の下はフィリピン海プレートと太平洋プレートが沈み込む地域であり、プレート境界に沿って多数の地震が発生しているが、本断層群に関係する可能性がある浅い地震の活動(例えば深さ30km以浅)は低調である。1995年4月以降の最近の7年間でみると、1995年に断層群付近の深さ約20km程度で、また、2000年に深さ数kmで、小規模な地震が発生した程度である。
2.1−3.断層群主部の将来の活動
(1)活動区間と活動時の地震の規模
断層群主部の将来の活動時には、最新活動時と同様に、衣笠・北武断層帯と武山断層帯とが別々に活動すると推定される。この場合、経験式(1)及び(2)によると、衣笠・北武断層帯で発生する地震の規模は、断層の長さを14kmとすれば、マグニチュード6.7となり、その時の変位量は1.1mとなる。また、長さを22kmとすれば、マグニチュード7.1となり、その時の変位量は1.7mとなる。同様に、武山断層帯では断層の長さを11kmとすれば、マグニチュード6.6となり、その時の変位量は0.9mとなる。
したがって、衣笠・北武断層帯では、マグニチュード6.7程度もしくはそれ以上の地震が発生すると推定され、その時の右横ずれ変位量は概ね1m程度もしくはそれ以上となる可能性があるが、マグニチュードが7.0程度もしくはそれ以上、右横ずれ変位量が概ね2m程度もしくはそれ以上となる可能性もある。また、武山断層帯ではマグニチュードが6.6程度もしくはそれ以上で、その時の右横ずれ変位量が概ね1m程度もしくはそれ以上の地震が発生する可能性がある。
なお、上述のように、衣笠・北武断層帯、武山断層帯の長さはそれぞれ最大でも約55kmを超えないと考えられる。したがって、参考値として、想定し得る地震の最大規模と最大の変位量を求めると、経験式(1)、(2)により、マグニチュード7.7程度、変位量は概ね4m程度となる。
一方、断層群主部は互いに近接していることから、将来の活動において全体が一つの活動区間として同時に活動する可能性もある。その場合、発生する地震の規模及び変位量は衣笠・北武断層帯が単独で活動する場合と同程度もしくはそれ以上となる可能性がある。
(2)地震発生の可能性
三浦半島断層群主部のうち、衣笠・北武断層の平均活動間隔は、信頼度は低いが1千9百年−4千9百年程度であった可能性があり、最新の活動時期は6−7世紀であったと考えられる。したがって、最新活動後、評価時点(2002年)までに、平均活動間隔の0.3−0.8倍程度の時間が経過していることになる。また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ、ほぼ0%−3%、ほぼ0%−5%、ほぼ0%−10%、ほぼ0%−30%となる。また、現在までの集積確率はほぼ0%−20%となる(表4)。
一方、武山断層帯の平均活動間隔は1千6百年−1千9百年程度と推定され、最新の活動時期は2千3百年前以後、1千9百年前以前であったと考えられる。したがって、最新活動後、評価時点(2002年)までに、平均活動間隔の1.0−1.4倍程度の時間が経過していることになる。また、地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001)に示された手法(BPT分布モデル、α=0.24)によると、今後30年以内、50年以内、100年以内、300年以内の地震発生確率は、それぞれ、6%−11%、9%−20%、20%−30%、50%−70%となる。また、現在までの集積確率は50%−90%より大となる(表5)。以上のように、本断層群主部の将来の地震発生の長期確率にはそれぞれ幅があるが、その最大値をとると、衣笠・北武断層帯及び武山断層帯はともに、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる。表4にこれらの確率値の参考指標(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会,1999)を示す。
なお、衣笠・北武断層帯と武山断層帯が同時に活動する場合の地震発生確率は、それぞれが単独で活動する場合の確率を超えることはないと考えられる。
2.2 三浦半島断層群南部
2.2−1 断層群南部の位置・形態
(1)断層群南部を構成する断層
断層群南部は、三浦半島南部の神奈川県三浦市に位置しており、ほぼ西北西−東南東方向に延びる南下浦断層と引橋断層から構成される。北側の南下浦断層は、三浦半島のほぼ西端から東端まで延びており、南側の引橋断層は三浦半島東半部にのみ分布する。南下浦断層の両端及び引橋断層の東端は海域にまで延びている可能性がある
断層群南部を構成する断層の位置は、活断層研究会(1991)、太田・山下(1992)、渡辺ほか(1996)などに示されている。ここでは、断層群南部を構成する断層の位置は渡辺ほか(1996)に、また、名称は活断層研究会(1991)によった。
(2)断層面の位置・形状
断層群南部の地下の断層面の位置及び形状は、地表及び海底付近における断層帯の位置及び形状から推定した。
断層群南部は相模湾及び浦賀水道に延びている可能性もあり、その両端の位置は明らかではないが、分布が確認されている範囲の両端をそれぞれ直線で結んで計測すると、長さは約6km、一般走向はN60°Wとなる。ただし、断層群主部と同様に、ここに示した長さや一般走向は断層の分布が確認されている範囲で計測したものであることに注意する必要がある。
断層群南部についても海域では十分な調査が行われておらず、断層群南部がどこまで延びているか確認できる資料は得られていないが、渡辺(1993)によると、相模湾側では、南下浦断層の延長上に断層が認められ、北に凸の弧を描くように、断続的に相模トラフまで約30km追跡可能である。ただし、これらが活断層であるかどうかは不明である。また、浦賀水道側では、浦賀水道の東側にまで達しているとするデータは得られておらず、最大でも海域部の延長は15km以内となる。以上、三浦半島陸域部の長さとあわせると、断層群南部の長さは最大でも約50kmを超えることはないことになる。
断層面上端の深さは、断層による変位が地表に達していることから0kmとした。断層面の傾斜は、断層露頭やトレンチにおける観察結果によれば、両断層とも地表付近では高角度と推定される。
(3)断層の変位の向き(ずれの向き)
断層群南部は断層群主部と同様、断層を横切る谷の右屈曲が顕著である(太田ほか,1982;渡辺ほか,1996など)ことから、右横ずれが卓越する横ずれ断層であると考えられる。また、南下浦、引橋両断層とも南側隆起の上下変位を伴っている。
2.2−2 断層群南部の過去の活動
(1)平均変位速度(平均的なずれの速度)
太田ほか(1982)は、断層群南部の南下浦断層で、三崎面を刻む谷の屈曲量からその平均右横ずれ変位速度を0.8m/千年と求め、また、引橋断層において、三崎面及びこれより古い面を刻む谷や尾根の屈曲量から平均右横ずれ変位速度を0.2−1.2m/千年と求めた。また、引橋断層については、Williams(1983)は、数千−数万年間の平均右横ずれ変位速度として、少なくとも2m/千年以上としており、神奈川県(2001)は、谷の屈曲量と断層上流側の谷の長さを地形図及び空中写真で計測し、松田(1966)の経験式から平均右横ずれ変位速度を0.7m/千年と求めている。
上下成分については、南下浦断層において、太田ほか(1982)は小原台面や三崎面などの上下変位量から、0.02−0.1m/千年と求めている。また、松島(1980)により、0.2−0.25m/千年と報告されているが、基準とした年代が約6千年と新しいため、その信頼度は低い。引橋断層においては、太田ほか(1982)は三崎面や小原台などを刻む谷などの上下変位量から0.1m/千年と求め、また、約6千年前とした谷底面の変位量から0.5−0.7m/千年としている。神奈川県は小原台面の上下変位量から0.07m/千年と求めている。また、Williams(1983)は、約6千年前の地形面の上下変位から0.5m/千年としている。このように約6千年前の地形面の変位を基準として速度の値が得られているが、このことは、トレンチ調査によると南下浦断層では約2万年前以後の活動は認められていないこと(後述)と整合しない。しかし、いずれにしろ基準とした年代値が比較的新しいためその信頼度は低い。
以上のように、断層群南部で得られている平均右横ずれ変位速度は、断層帯主部で得られた数値と同じような問題があり、また、それぞれの数値のばらつきも大きい。個々の数値の信頼度は高いとはいえないが、過去数万年間にわたる谷や尾根の屈曲量から太田ほか(1982)が求めた南下浦断層と引橋断層の数値を足し合わせると、平均変位速度の右横ずれ成分は概ね0.9−1.9m/千年となる。得られた平均右横ずれ変位速度によると、断層群南部は活動度の高い断層となるが、トレンチ調査等に基づく過去の活動履歴(後述)からは、このような高い活動度を想定することは困難で、両者の数値は整合しない。
このため、ここでは断層群南部の平均右横ずれ変位速度は不明とする。
上下成分についても、右横ずれ成分と同様の問題があるが、南下浦断層、引橋断層いずれも南側隆起の断層であり、長期間の平均を示す三崎面や小原台面を刻む谷の変位量から得られた値から、南下浦、引橋両断層の数値を足し合わせると、上下成分は概ね0.2m/千年程度となる。
(2)活動時期
地形・地質的に認められた過去の活動
断層群南部では、南下浦断層(菊名地点)及び引橋断層(金田地点)でそれぞれ1箇所ずつトレンチ調査が行われている。このうち、三浦市菊名の谷底低地で、神奈川県(2000)が実施したトレンチ調査によると、東壁面でa断層が少なくともE2層までを切っている(図7−1、7−2)。上位のD3層はこれを覆っているようにみえるが、やや不確実である。したがって、E2層堆積後、D3層堆積前もしくはそれより少し後に最新活動があったと考えられる。E2層からは約2万6千年前を示す年代値が得られている。D3層からは年代値が得られていないが、その上位のD2層からは約2万3千年前の年代値が得られている。一方、断層に切られているE1層からは約2万2千年前の年代値が得られている。このように年代値が逆転するが、ここでは、この活動の時期を約2万6千年前以後、約2万2千年前以前であったと推定する。
以上のように、菊名地点のトレンチ調査によれば、断層群南部の南下浦断層では最新活動が約2万6千年前以後、約2万年2千年前以前にあったと推定される。
一方、引橋断層では三浦市金田で神奈川県(2001)によりトレンチ調査が行われているが、その結果によると、少なくとも約7千2百年前以後には断層活動は認められていない。南下浦断層の最新活動時に引橋断層も同時に活動したかどうかは資料がないが、両断層は近接して並走しているため、同時に活動したとみなすこととする。
上述のように、松島(1980)は、南下浦断層により約6千年前の段丘面が上下変位を受けていると報告している。太田ほか(1982)、熊木(1982)及びWilliams(1983)も約6千年前若しくはそれ以降の段丘面の変位を報告している。これらによると、断層群南部は約6千年前以後にも活動があったことになるが、確実に同一面が変位しているかどうかやや不明確であるため、ここではトレンチのデータを重視して、断層群南部の最新活動時期を約2万6千年前以後、約2万2千年前以前とする。
なお、地形の変位量などによると、断層群南部は高い活動度を持っている可能性もあり、断層の長さから想定される1回の変位量(後述)を考慮すると、断層群南部はもっと頻繁に活動している可能性も否定できないが、トレンチ調査から得られた最新活動時期は2万年前以上前であり、これらの数値は矛盾するものとなっている。このように、ここで得られた最新活動時期は他のデータと整合しないことに注意する必要がある。
(3)1回の変位量(ずれの量)
分布が確認されている断層群南部の長さは、6kmであり、経験式(1)、(2)を適用すると、1回の活動に伴う変位量は0.5mと求められる。ただし、この変位量は分布が確認されている長さから求めたもので、断層は海域にさらに長く延びている可能性もあることから、求められた変位量は最小値と考えられ、もっと大きな値であった可能性もある。
また、上述のように、断層群南部の長さは最大でも約50kmを超えないと考えられることから、断層長を50kmとして経験式(1)、(2)を用いて変位量を求めると、1回の活動に伴う変位量は最大の想定でも概ね4.0m程度となる。
なお、神奈川県(2000)は、菊名トレンチ地点において、断層によりF2層の上面が2m程度上下方向に変位していることから、南下浦断層の1回の活動に伴う上下変位量を少なくとも2m以上と推定している。しかし、この数値はトレンチ壁面両側での見かけの地層の高度差から得られたものであり、信頼度は低い。
(4)活動間隔
断層群南部については、複数の活動時期が得られてなく、また、信頼度の高い平均変位速度や1回のずれの量が求められていないため、断層群南部の平均活動間隔は不明である。
なお、トレンチ調査に基づくと、断層群南部は最新活動後2万年以上活動していないことになる。このことを考慮すると、その平均活動間隔は数千年程度以下であるとは考えにくく、参考値ではあるが、少なくとも概ね1万年程度若しくはそれ以上とみることも可能である。
(5)活動区間
断層群南部を構成する南下浦断層と引橋断層は、別々に活動した可能性も否定できないが、両断層の並走部分は1.5km程度の間隔で近接しており、松田(1990)の基準によれば一つの起震断層とみなされること、また、これらが別々に活動したことを示す資料も得られていないことから、断層群南部は一つの活動区間として活動したとみなすこととする。
(6)測地観測結果
2.1−2(6)参照。
(7)地震観測結果
2.1−2(7)参照
2.2−3.断層群南部の将来の活動
(1)活動区間と活動時の地震の規模
将来の活動においては、断層群南部全体が同時に活動すると推定される。ただし、別々に活動する可能性も否定できない。
断層群南部全体が同時に活動する場合、長さを6kmとすれば、経験式(1)及び(2)により地震規模及びその際の変位量を求めると、マグニチュード6.1、変位量は0.5mとなる。
したがって、断層群南部では、マグニチュード6.1程度もしくはそれ以上で、その時の右横ずれ変位量が0.5m程度もしくはそれ以上の地震が発生する可能性がある。
なお、上述のように、断層群南部の長さは、最大でも約50kmを超えないものと考えられる。したがって、参考値として想定し得る地震の最大規模を求めると、経験式(1)、(2)により、断層群南部では、マグニチュード7.7程度、その際の変位量は4m程度となる。
(2)地震発生の可能性
三浦半島断層群南部の平均的な活動間隔が不明であるため、地震後経過率や地震発生確率を求めることはできない。
2.3 今後に向けて
三浦半島断層群は活動度の高い断層群である。しかし、本断層群を構成する断層は三浦半島を横断して相模湾及び浦賀水道の海域に達している可能性があり、断層の正確な分布・長さ等が不明であるため、将来発生する地震規模等の推定を十分に行うことができない。このため、これらの海域における調査により断層群を構成する各断層の長さや分布を明らかにすることが必要である。
また、平均変位速度も数値として精度のよい値が得られていない。断層群主部は、活動度が高く平均活動間隔も短いと考えられるため、より精度の高い評価を行うためには、平均変位速度など過去の活動履歴に関する調査が必要である。一方、断層群南部はトレンチデータから得られた最新活動時期は2万年以上前であるのに対し、求められている平均変位速度は大きく、両データは整合していない。さらに、南部では平均活動間隔が不明であり、将来の地震発生可能性が明らかになっていない。したがって、過去の活動に関する調査をより一層進める必要がある。
さらに、断層の地下の形態についても明らかにすることが必要である。
| 注12: | 「変位」を、1頁の本文及び4頁の表1では、一般にわかりやすいように「ずれ」という言葉で表現している。ここでは専門用語である「変位」が本文や表1の「ずれ」に対応するものであることを示すため、両者を併記した。以下、文章の中では「変位」を用いる。なお、活断層の専門用語では、「変位」は切断を伴う「ずれの成分」と切断を伴わない「撓(たわ)みの成分」よりなる。 |
| 注13: | 10,000年BPよりも新しい炭素同位体年代については、Niklaus(1991)に基づいて暦年補正した1σの推定幅の上限値もしくは下限値を用いた。このうち紀元より前の年代については百年単位で四捨五入して表示した。また、10,000年BPより古い炭素同位体年代については、Kitagawa and van der Plicht(1998)のデータに基づいて暦年補正し、千年単位で表示した。 |
文 献
安藤喜美子(1972):三浦半島・伊豆半島および兵庫県山崎付近における断層の横ずれによる谷の変位量について.地理学評論,45,716−725.
池田安隆・今泉俊文・鈴木毅彦・鈴木康弘・渡辺満久・宮内崇裕・山縣耕太郎(1993):1988年武山断層(長坂地区)トレンチ調査.活断層研究,11,38−42.
今泉俊文・島崎邦彦・宮武 隆・中田 高・岡村 真・千田 昇・貝塚爽平・岩田孝行・神谷真一郎・畑中雄樹・橋田俊彦(1987):三浦半島南東部沖金田湾における海底活断層の発見.活断層研究,4,28−36.
伊藤吉助・岡 重文・垣見俊弘・小林武雄(1970):三浦半島の南下浦断層と段丘地形の関係−試錘による断層地形検討の一例.地質調査所月報,21,53−60.
岩淵 洋・雪松隆雄・田賀 傑(1996):東京湾の活断層調査.「首都圏直下の地震の予知手法の高度化に関する総合研究」(第U期平成6〜7年度)成果報告書,科学技術庁研究開発局,58−65.
地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001):「長期的な地震発生確率の評価手法について」.46p.
地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会(1999):「(改訂試案)長期的な地震発生確率の評価手法について」.74p.
垣見俊弘・平山次郎・岡 重文・杉村 新(1971):南下浦断層の変位の性格,特に垂直変位量について.第四紀研究,10,81−91.
神奈川県(1995):「平成6年度廃棄物広域最終処分場地質調査委託分割の1調査報告書」,128p.
神奈川県(1996):「平成7年度地震調査研究交付金 北武断層に関する調査 成果報告書」,129p.
神奈川県(2000):「平成11年度地震関係基礎調査交付金 神奈川県地域活断層(三浦半島断層群)調査事業 成果報告書」,137p.
神奈川県(2001):「平成12年度地震関係基礎調査交付金 神奈川県地域活断層(三浦半島断層群)調査事業 成果報告書」,91p.
Kaneko, S.(1969): Right−lateral faulting in Miura Peninsula south of Tokyo, Japan.Jour. Geol.Soc.Japan, 75, 199−208.
活断層研究会(1980):「日本の活断層―分布図と資料―」.東京大学出版会,363p.
活断層研究会(1991):「新編日本の活断層―分布図と資料―」.東京大学出版会,437p.
Kitagawa, H. And van der Plicht, J. (1998):Atmospheric radiocarbon calibration to 45,000yrB.P. : Late Glacial fluctuations and cosmogenic isotope production. Science,279, 1187−1190.
熊木洋太(1982):三浦半島の完新世段丘と完新世の地殻変動.国土地理院時報,54,41−49.
Kumaki Y. (1985): The Deformations of Holocene Marine Terraces in Southern Kanto,Central Japan. Geog Rev. Japan, 58, 49−60.
町田 洋・新井房夫(1992):「火山灰アトラス」.東京大学出版会,296p.
松田時彦(1966):跡津川断層の横ずれ変位.地震研究所彙報,44,1179−1212.
松田時彦(1975):活断層から発生する地震の規模と周期について.地震,第2輯,28,269−283.
松田時彦(1990):最大地震規模による日本列島の地震分帯図.地震研究所彙報,65,289−319.
松島義章(1976):三浦半島の南下浦断層の新露頭.地質学雑誌,82,211−214.
松島義章(1980):南関東における貝殻群集からみた縄文海進と地殻変動.月間地球,2,52−65.
松島義章(1984):完新世段丘からみた相模湾・駿河湾沿岸地域のネオテクトニクス.第四紀研究,23,165−174.
Niklaus, T. R.(1991):CalibETH version 1.5, ETH Zurich, 2 disketts and manual, 151p.
太田陽子・山下由紀子(1992):三浦半島の活断層詳細図の試作.活断層研究,10,9−26.
太田陽子・藤森孝俊・鹿島 薫・蟹江康光(1991):三浦半島北武断層の完新世における活動期と変位様式に関する考察.横浜国立大学教育学部理科研究,第2類,38,83−95.
太田陽子・松田時彦・池田安隆・渡辺憲司・D.N.Williams・小池敏夫・見上敬三(1982):三浦半島及び国府津・松田地域の活断層に関する調査報告書.神奈川県,15−80.
佐藤比呂志・蟹江康光・東郷正美・渡辺満久・小松原琢・隈元 崇・八木浩司・馬 勝利・太田陽子・中村俊夫・梅沢俊一(1997):横須賀市野比地区における北武断層のトレンチ調査.活断層研究,16,13−18.
杉村 新(1964):三浦半島の南下浦断層.地質学雑誌,70,397.
杉村 新・斎藤 勝・東郷正美・池田安隆・蟹江康光・江藤哲人・太田陽子・佐藤比呂志・浅見茂雄・藤井義仁(1999):三浦半島,横須賀市長沢地区における北武断層のトレンチ調査.地学雑誌,108,562−588.
鈴木威元・小玉喜三郎・三梨 昴・岡 重文・卜部厚志・遠藤 毅・堀口万吉・江藤哲人・菊地隆男・山内靖喜・中嶋輝允・徳橋秀一・楡井 久・原 雄・中山俊雄・那須紀幸・加賀美英雄・木村政昭・本座栄一(1995):10万分の1東京湾とその周辺地域の地質(第2版)説明書.特殊地質図(20),地質調査所,109.
渡辺一樹(1993):相模湾西部の海底微地形.水路部研究報告, 29, 33−50.
渡辺満久(1990):新興住宅地を切る活断層.活断層研究,8,97−103.
渡辺満久・宮内崇裕・八木浩司・今泉俊文(1996):1:25,000都市圏活断層図「横須賀・三崎」.国土地理院技術資料,D.1−333.
Williams, D, N.(1983):Late Quaternary Displacement at the Hikihashi and Kitatake Faults Miura Peninsula, Japan. The Quaternary Research, 21, 289−299.
山崎直方(1925):関東地震ノ地形学的考察.震災予防調査会報告.100乙,11−54.
Yamasaki, N. (1926):Physiographic studies of the great earthquake of Kanto district,1923. Jour. Fac. Sci. Imp. Univ. Tokyo, 7, 19−21.
横須賀市(1998):「平成9年度武山断層調査委託報告書」,115p.
横須賀市(1999):「平成10年度衣笠断層調査委託報告書」,79p.
表4 三浦半島断層群主部の地震発生確率及び参考指標
| 項 目 | 数 値 | 備 考 |
|
衣笠・北武断層帯 地震後経過率 今後30年以内の発生確率 今後50年以内の発生確率 今後100年以内の発生確率 今後300年以内の発生確率 集積確率 |
0.3 − 0.8 ほぼ0% − 3% ほぼ0% − 5% ほぼ0% − 10% ほぼ0% − 30% ほぼ0% − 20% |
発生確率及び集積確率は地 震調査研究推進本部地震調 査委員会(2001)参照。 |
| 指標(1)
経過年数 比 指標(2) 指標(3) 指標(4) 指標(5) |
−2千百年 − +2百年 0.4 − 1.1 ほぼ0 − 2 ほぼ0% − 20% ほぼ0 − 0.2 0.0002 − 0.0005 |
地震調査研究推進本部地 震調査委員会長期評価部 会 (1999) 参照。 |
|
武山断層帯 地震後経過率 今後30年以内の発生確率 今後50年以内の発生確率 今後100年以内の発生確率 今後300年以内の発生確率 集積確率 |
1.0 − 1.4 6% − 11% 9% − 20% 20% − 30% 50% − 70% 50% − 90%より大 |
発生確率及び集積確率は地 震調査研究推進本部地震調 査委員会(2001)参照。 |
| 指標(1)
経過年数 比 指標(2) 指標(3) 指標(4) 指標(5) |
+6百年 − +1千2百年 1.4 − 2.1 4 − 6 50% − 90%より大 0.4 − 0.7 0.005 − 0.0006 |
地震調査研究推進本部地 震調査委員会長期評価部 会 (1999) 参照。 |
| 注14: | 評価時点はすべて2002年1月1日現在。「ほぼ0%」は10−3%未満の確率値を、「ほぼ0」は10−5未満の数値を示す。なお、衣笠・北武断層帯では計算に用いた平均活動間隔の信頼度が低い(△)ことに留意されたい。 | |
| 指標(1) | 経過年数 | :当該活断層があることによって大地震発生の危険率(1年間当たりに発生する回数)は最新活動(地震発生)時期からの時間の経過とともに大きくなる(ここではBPT分布モデルを適用した場合を考える。)。一方、最新活動の時期が把握されていない場合には、大地震発生の危険率は、時間によらず一定と考えざるを得ない(ポアソン過程を適用した場合にあたる。)。この指標は、BPT分布モデルによる危険率が、ポアソン過程を適用した場合の危険率の値を超えた後の経過年数である。マイナスの値は、前者が後者に達していないことを示す。例えば、衣笠・北武断層帯の場合、後者の危険率は4400分の1(0.0002回)−1900分の1(0.0005回)であり、時間によらず一定である。前者は評価時点でほぼ0−1000分の1(0.0009回)であり、時間とともに増加する。ほぼ0であれば前者が後者の回数に達するには今後1千8百年を要するが、1000分の1であれば前者が後者の回数に達してから2百年が経過していることになる。 |
| 指標(1) | 比 | :最新活動(地震発生)時期から評価時点までの経過時間をAとし、BPT分布モデルによる危険率がポアソン過程とした場合のそれを超えるまでの時間をBとする。前者を後者で割った値(A/B)。 |
| 指標(2) | :BPT分布モデルによる場合と、ポアソン過程とした場合の評価時点での危険率の比。 | |
| 指標(3) | :評価時点での集積確率(前回の地震発生から評価時点までに地震が発生しているはずの確率)。 | |
| 指標(4) | :評価時点以後30年以内の地震発生確率をBPT分布モデルでとりうる最大の確率の値で割った値。 | |
| 指標(5) | :ポアソン過程を適用した場合の危険率(1年間あたりの地震発生回数)。 | |